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ぼんやり外を見て呟く。
「また雨か…」
心の中ではこのままやまなけば良いと思った。
そうすれば、あの人はまだここに居てくれるかもしれないから。
でもそんな事は無く、必ず濡れてでも私の嫌いな人の元へいく。
ほら、今もその支度をしている。
分かってはいるけど、少しでもあの人の足を止めるのであればこのまま雨が降ればいいと思ってしまう。
様子を見ていると、ちらりと痛々しい傷が袖から覗いた。
「ねえ、雨降ってるみたいよ。まだここに居れば?」
「ううん、戻らなきゃ。」
そう言って前を向き、荷物を持って、行ってしまった。
雨に濡れるのが当たり前かのように。
「そんな苦しそうな顔してどこに戻るっていうのよ。」
本当は一言、言えば良いのかもしれない。
でもその辺の人は何も知らないと言うんだ。
そして、後から取り返しのつかない事になったりすれば
「なんでもっと早くに相談しなかったの」
と責め立てるんだ。
そして私も、あの嫌な空間の加害者側になるんだ。
助けられないのなら、それでも良いか…。
「私も、戻らなきゃ…。」
スカートの埃を払って立ち上がる。
このあと私もまたあの人と話さない人間になる。
仲が良いのを知られたらゲームオーバー。
だから未完成な天邪鬼になる。
嘘を並べたて、仮面のような作り笑顔で強いふりをする。
どんなに弱い本音を言いたくても、雨が塞いでしまうから。
雨がやんだ後の虹は嗤っているようで嫌い。
雲間から顔を出す太陽が雨粒を照らして煌めくのも嫌い。
水溜まりが醜い私を映し出すのも嫌い。
…でも、本当はやまない雨の方がもっと嫌い。
濡れた背を見るのは、もう嫌だよ。
あの人の為にやんでくれませんか?
なんて、嘘つきが言っても誰も信じない…か。
私は少しでも濡れないようにと駆け出した。
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