プロピオニバクテリウム・アクネスの花嫁

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「では美肌を取り戻すため、これからふたりで頑張りましょう!」  ……。『頑張る』とは?  天使騎士の言葉に、私は三秒ほど固まった。   「……あのー、魔法とかでこうパーッとあっという間に解決☆とかじゃ、ないのでしょうか?」    私は自分の前世を、ナマケモノだったんじゃないか? と思っている。  そのくらい無精者な私なのに――……嫌な予感をビンビンに感じながら、おそるおそる尋ねた。 「即時解決は無理です。私は魔法使いでなく、騎士ですから」  美貌の天使騎士は満面の笑みを私へ向ける。  こんな状況でなければ、たぶん私はキュン死していたと思う。  ええ、こんな状況でなければ。 「心配せずとも大丈夫ですよ。私、肌トラブルを解決するための知識はたくさん持っておりますから。力をあわせて大人ニキビを克服しましょう!」 「アッ、ハイ……ガンバリマス……」  こうして美肌の守護天使騎士指導による、私の汚肌改善計画が始まったのだった……。  * 「花嫁よ、夜食に背油マシマシの豚骨ラーメンを食そうではないか!」 「我とカラオケ、オールしようぞ!」 「今日くらい化粧落とさずに寝ても平気だと思うなー」  ――などと度々アクネスが妨害に来たものの、約一ヶ月後、紅き印という名の呪いのニキビは、私の肌から完全に消えていた。 「何故我の妃になることを拒むのだ?!」  ツルツルでピチピチな美肌を得た私の前で、アクネスは床に膝をついて両手で顔を覆い、この世の終わりかのようになげく。 「私は人間なので、結婚相手はやっぱり人間がいいなって。それに、常時ニキビ百個はちょっと……」  イケメンが悲嘆にくれている様子はひどく同情を誘うが、「アクネスはニキビ菌! アクネスはニキビ菌!」と私は心の中で繰り返し、優しい言葉をかけたい気持ちを我慢する。 「貴様が彼女にかけた呪いは、彼女自身の努力によって解かれた! よってもう貴様の花嫁になることはない! 疾く去るがいい!」  呪いって努力で解けるもんだったんだなぁ……と、約一ヶ月間の汚肌改善プログラムを回想している私の横で、天使騎士が居丈高に言い放つ。  アクネスは「ぐっ……」と悔しげにうめくと、天使騎士をにらみながらヨロヨロと立ち上がった。 「これで終わったと思うなよ!再び赤き印がそなたの身に現れた時、必ず再会を果たそうぞ!」 「お断りします!」  私の返事をかき消すようにアクネスは「フハハハ!」と高笑いし、窓を開けると黒い翼をひろげ、ベランダから夜空へと飛び去っていってしまった。
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