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プロピオニバクテリウム・アクネスの花嫁
午前零時、ドレッサーの鏡の中から、黒い爪を生やした手がぬぅっと出てきた。
「ひゃぁっ?!」
驚いて椅子から転げ落ちた私の前に、黒い爪の持ち主は肩、頭、胸――と徐々に姿を現す。
そうして全貌を現したのは、背中から黒いコウモリ羽、頭から角を二本生やした、黒髪赤目のヴィジュアル系イケメンだった。
「ククク……見つけたぞ……」
無様に床へ尻餅をついたまま呆然としている私の顎を、悪魔のような特徴を持つ謎の男が掴む。
「紅き印をその身に宿す、我が妃となる資格を持つ者よ」
「あ……あかき、しるし……?」
「分からぬのか。そなたの顔にあるコレとコレのことだ。クク……よしよし、祝福を授けてやろう」
「ぎゃっ! 痛いっ、やめて!」
意地の悪い笑みを浮かべた男が、私の顎と頬にできていた大きな赤ニキビを指で強く押したものだから、当たり前に痛くて悲鳴が出た。
――直後、ドレッサーの鏡が白く強い光を発した。
「そこまでだアクネス! 彼女から離れろ!」
イケボと共に光の中から新たに飛び出してきた人物は、白色の軍服を着た金髪碧目の美青年で、彼は背中から純白の翼を生やし、頭上には金色に光る輪を浮かべていた。
天使感あふれる彼は腰に差していた剣を素早く抜くと、私の顎を掴む男へ迷うことなく振り下ろす。
ヴィジュアル系イケメンは私から手を放して剣をかわすと舌打ちをし、少し離れた場所から忌々しげに乱入者をにらんだ。
「また貴様か! 毎回毎回、我の嫁探しの邪魔をしおって!」
「私は美肌の守護天使騎士故、人々の肌を荒らすお前の邪魔をするのは当たり前だろう」
外見の通り天使だと自己紹介した彼は、悪魔っぽい男から私を守るように、床へ座り込んだままな私の前へ立つ。
「……肌を、荒らす?」
「そう。こいつはプロピオニバクテリウム王国の第一王子・アクネス。――分かりやすく説明すると、ニキビ菌の王子だ」
「ハァーーッ?!」
意味不明な事態に混乱する中、おうむ返しのように口にした疑問へ、とんでもない回答がなされてしまった。
「ハハハ! 人間の女よ、我の伴侶となれることを誇りに思うがよいぞ!」
「無理ー! ニキビ菌の嫁とかマジでムリー!」
ニキビ菌の王子という彼――アクネスとの婚姻を全力で拒否すると、「ム?」と彼は眉間にシワを寄せた。
「そなた、我の妃となる栄誉を要らぬと申すか」
「はい」
どんなにイケメンでも、菌と結婚はしたくない。
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