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乾燥機はまだ終わりそうにない。
(眺めていたってしょうがない)
雅は、やりかけていた掃除の続きをしようと廊下に出た。
その時
「おぅい」
と二階から夫に呼びつけられた気がした。
「何?」
ぶっきらぼうに返事をすると
「ちょっと来て」
と言う。
呼びつけられたと思ったのは、本当だったようだ。
(今から掃除なんだけど、な)
苛々した気持ちを抑えつつ、一度掃除機を置いて二階に上がる。
(もう、何なのよ、一体!)
部屋に入ると智也はソファから一歩も動かずに、雅に視線も移さずに、ハードディスクレコーダーのリモコンで
「これ」
と画面を見るように促された。
(何よ、人を呼びつけといて、その態度。自分はソファでゴロゴロしているだけのくせに!)
(智也さんはいいよね。休日に自分の好きなことばっかりして)
溢れるのは、智也への不満ばかり。
数年前からやまぬ雨で、ダムの決壊は間近だ。
「これ、お前が好きだって言ってた特撮だろ?」
イケメン俳優の登竜門的な特撮番組。
智也が現在進行中のCMカット編集番組は、それだった。
デビューしたてのイケメン俳優も、十数年経ち、今や押しも押されぬ大スターに変貌している。
(……だいぶ前に言ったこと、よく、覚えていたわね)
雅が画面を見入ったので、智也は起き上がってソファに座り直した。
それで雅は、智也と20センチほど離れてソファに腰かけた。
(あれ? もしかして今、雨、止んでない?)
―了―
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