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「あー、やだ! いつのまにか雨が降っている!」
慌てて北山雅(きたやま みやび)は二階に駆けあがり、ベランダの洗濯物を取り込んだ。
「もう! お天気お姉さんめっ! なーにが『今日は梅雨の合間の晴れ。久しぶりに洗濯物が乾きそうですね』だよ!」
せっかく乾きかけていたのに、雨粒のいびつな水玉模様に濡れた洗濯物を見つめて雅は文句を垂れた。
だが、確かにお天気お姉さんは付け加えていたのだ。
「所によってはにわか雨が降ることも。ご注意を!」
とそこの所はご都合的に聞かなかったことにして。
雅の大きな独り言が聞こえたのだろう。
二階のリビングのソファに寝そべっていた夫の智也は、
「そんなの、乾燥機にかけたらいいやん」
と気楽なものだ。
(居たのなら取り込んでくれればいいのに)
と雅は苦々しく思う。
結婚して15年も経つと、家庭内のお互いの仕事は確立し、逆に相手の仕事と決めつけたものはしない。
確かにそれで、いいこともある。
食器棚の茶碗の定位置を変えられるのはイヤだし、夫がしてくれているゴミ出しをするのもイヤだ。蚊に食われるので、庭の芝刈りはもっと嫌だ。
ただ、今でも思い出すのだ。
雅が
「今日は疲れた」
と洗濯物を取り込んだ時、智也が何気なく
「じゃあ、畳むのは明日にしたらいいやん」
と言った言葉を。
ほんの少しだけ期待していたのに。
「じゃあ、今日は俺がするよ」
と言ってくれるのを。
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