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「私は受験で偏差値五つも上げたんだから、これでも頑張ったほう。来花こそ古文はボロボロだったっしょ」
「えー、来花古文苦手ー? 英語はめっちゃ得意なのにねー」
「英語も古文も文法と単語を覚える教科だし、語順が同じぶん古文のほうが簡単じゃないのか?」
なんて、同じ意見の美奈と瑠璃は、出身中学校も同じだ。
私と来花はお互い出身中学校が同じ子がいなくて、たまたま最初の席が近かったから(苗字が『ももぞの』と『やし』だから)つるんでたんだけど、いつの間にか二人のグループと合併して四人組になってた。
やっぱり六月終わりくらいになると、どうしてもクラス内でグループってできてくる。
大通りの信号待ちで、美奈が私に訊いてきた。
「詩恵のバ先って菜食料理店だったよねー?」
「うん。『寡隠堂』っていうそこそこオシャレなお店だよー。店長はちょっと変わってるけど」
私が答えると、事情を知っている来花がふき出した。
うん、店長の変わってる度は、『ちょっと』じゃないかも……。
「私たち、ヴィーガンとかベジタリアンとかじゃないんだが、行っても大丈夫か?」
瑠璃はちょっと心配そうだ。
「大丈夫大丈夫。菜食料理店っていっても、いろんなお客さんがいるから」
ちょうど信号が青に変わる。私は信号を渡りながら説明を続けた。
「『寡隠堂』のお客さんは、健康志向で野菜を摂りたくて来る人が多いかな。あと、けっこういるのが卵や乳製品のアレルギーの人。もちろん普通にたまたまパッと入る人もいるし」
「へー……いろんな理由があるんだね」
瑠璃が感心する。菜食料理店の中にはヴィーガン以外お断りの店もあるけど、『寡隠堂』はそのへんはオープンだ。
店長も別にヴィーガンじゃなくて、野菜の美味しさを広めたいだけの人だし。
……もっとも、その情熱のレベルがちょっとおかしいんだけどね。
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