12 きっとあなた憂鬱なとき

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この世に生まれてきた子は、 お母さんに愛されて護られている。 よその子のお母さんも、 私の母と同じことを子供にしている。 だから、私… 私を愛して護ってくれている母の為に、 嫌なことも我慢しなければいけない、 『...っと!子供の頃は  健気にも、私、  思ってたんだよねぇ~』  梨沙は、咲の部屋から門限を気にしてまっす ぐに急ぎ戻った、静かな、独りぼっちの社宅 の部屋で、一日の終わりの時間を気にするこ ともなく、ただ、ボォ~ッとしている。さっ きまでの明るい梨沙ではない。 いつも、皆の前で、元気印の、ハリキリ者で、 どんな場所でも物おじせずに、お道化て見せ るのは、梨沙の外での努力。本当は、無気力、 無反応、無責任が、ラクで好き… 『 咲と駿の結婚は、  私、祝福しているけど 』 『 でも…私は…  これから、  どうするかなぁ… 』 梨沙の中で、独りぼっちは、 さらに、強められている。 『 でも…  咲も言ってたけど、       子供… 』 梨沙は、幼稚園の入り口に入るとき… いつも、どんなところでも、身だしなみも、 完璧な、良妻賢母の、女性らしい所作も、 キチンとできる、どのママよりも美しい… 「 リサのママ、  きょうも、イチバン、     キレイだね!」 「 うん‼」 梨沙は、お友だちからも褒められる、 自慢の、 そんな母に向かって、最上級の笑顔で、 バイバイをして、 幼稚園から家へ帰る時には、 お迎えの時間よりも少し早めに、 キチンと迎えに来てくれた 母に飛びついて喜んだ。 「おかあさん~‼」 「……」 でも、こんな時、いつも、母は、笑顔じゃな かった。母に抱き着き、小さい梨沙が下から 見上げた母の顔は、いつも無表情。 「おかあさん?どうして?  ワタシの、『 テ 』、が、  ヨゴレテいるのかなぁ…  きれいな、  おかあさんのオヨウフクを   ヨゴシちゃうから?」 幼稚園は子供たちが元気で、ときに、 土ぼこりも舞っていたりするが、 梨沙の母は、 「これからどちらへ?」なカンジで、 ハイヒールに、派手な色のワンピに、 ブランドバッグを見せびらかすように 肩より少し低めに持ち、 化粧も完璧だった。いつもの事だけど… それに、硬めで、「ママ」ではなく 「おかあさん」と梨沙にいわせる。 梨沙は、母にニラマレタと思い、パタパタと 自分の手や、着ていた幼稚園の制服が汚れて いないか確かめてみる… 「……」 母はチャンと、社交的に、 梨沙を待っている時間も、よそのママとは、 笑ってお喋りを楽しんでいた、の、は、 さっきまでのこと…、 「なんで、おこってるの?      どうしよう…」 梨沙は、 「しずかに、しなきゃ」、と、 家まで黙って...、 母と手をつなぎ歩いて行く。 梨沙が小さかったころの、この幼稚園では、 いつも花壇の花がきれいに咲いていて、園児 たちを元気にしてくれる。 お当番さんの日には、その花たちに、お水を あげるために、幼稚園に行くのも楽しい5月 には、 いまではほとんど、行われなくなっているけ れど、梨沙の5才のころの当時は、園児たち が懸命に取り組まなくてはいけない行事があ って…、 その「母の日」に、母の喜ぶ顔がみたくて、 母に精一杯の感謝の気持ちを込めて、小さな 手で、贈り物の、おかあさんの絵を描いたり、 折り紙でカーネーションの花を作ったりもし たけれど…、 母に手渡した「梨沙の気持ちのこもったプレ ゼント」は、家の中に飾られたことは、なか った。まるでそんな事自体が無かったかのよ うに家の中の、どこにもなかった。 でも、それは確かに、梨沙は母に手渡しで贈 ったのに… この幼稚園では、母の日の贈り物の作品を作 るだけではなく、母にプレゼントする時の、 「渡し方の練習」、 「おかあさん、いつも  ありがとうございます!」 「はい!」 「おかあさん、いつも  ありがとうございます!」 「はい!」 「おかあさん!いつも  ありがとうございますぅ‼」 の、ご挨拶付きで、何度も何度も、上手にで きるようにと、先生と一緒に、ガンバッテ練 習もしていたのに…、 そんな梨沙の気持ちも、一緒に受け取ったは ずの、母からの気持ちのお返し、スグにお返 事できるはずの「ありがとう」の言葉も、全 く無く… それからも、毎年、母への感謝の日に、梨沙 は、「失敗してしまった、一年前を反省し」、 気持ちを新たに、去年よりも、もっと、 もっと、上手に、 どんなに心を込めて感謝を伝えても、 「ことしは、  ガンバッタから、  ダイジョウブかなぁ‼」 「このオリガミノ色!  おかあさんのスキな色!  この色のオヨウフク、  おかあさん、  いつもキテルもの‼」 梨沙は、 チャンと考えたつもりでも、 その年も、次の年も、も…、 母から返ってくる言葉は、 何も、なかった。 『 でも、その時は…、  母の喜ぶ、母の好きな、  母の気に入る物を  作ることができないから、  そんな、  「価値がない」事を  してしまったから、  自分が悪くて、  母は、  何も云ってくれないんだって、      思ってたんだよね… 』 梨沙は、冷蔵庫からキンキンに冷えた ビールを捕りだして、ゴクッ!と、 一口飲んで、ため息をつく。 スッキリとはしない… 今夜は、すぐに眠れそうにない。 部屋の中を、ウロウロして…、 急に、思い出したように、 床に放り出していた 通勤バッグの中をガサゴソしてみる… 『良かったぁ~、思い出して…  これ! 入れっぱなしだと、  バッグの中に、臭いが、      残っちゃうからね...』 梨沙は、「通勤バッグ」なのに、その中に、 スルメイカを入れていた…、確かに、これは、 袋に入っていても、臭う、かも、しれない… でも...スルメイカだけ? 大丈夫だろうか… なんだか、他にも、 入っているのかもしれない…、 通勤バッグなのに…、 電車にも乗るのに…、 スルメイカが… 入っている… 通勤… バッグ… 結婚… 家庭… そんなこと、 考えているけれど、 まずは、 相手を… そんな人… スルメイカがお供の、 こんな梨沙に… 子供にとっては、母親が最愛の人。 自分が、 出せる全部の力、気持ちで、 母の為に、自分ができる事、我慢する事、 耐える事、代わりになってあげる事を、 「 懸命に努める 」 幼くて、まだ、他人には上手く状況を伝えら れなくでも、自分の母ならば、それでも、分 かってもらえると、めいっぱいできる範囲で、 母の気持ちも理解し、母に、愛情をお返しし ている。 『 私、そう、  だった、もの… 』 梨沙が社会人になったばかりの、新人の頃ま では、ガーリーな感じの服を選んで着ていた のは、梨沙の、母の、好みに合わせていたか らで、 それは、 少しでも、姉の様に… 母に気に入られるようにと、 梨沙が努めていたから。 成人しても、やっぱり、親は親。 母が与える影響力は大きい。 だから、 同期の茉由は、それが、 梨沙の好みだと 思っていたみたいだが、 本当は違う。 「どう、したら、  おかあさん、に、  ヨ・ロ・コ・ン・デ  もらえるの?、  なにをしたら      イ・イ・ノ…」 そんな、事が、どんどん、 幼い梨沙を苦しめる。 『でも…、  ガンバッテも  駄目だったね...』 梨沙は、仕事中に、マンションからマンショ ンへ移動する際、住宅街を歩くと、時に、 児童公園で遊ぶ母子を見かける、が…、 梨沙は、自分のように、傷ついた子供がいた としたら、解放してあげたい。 その子の母親にも、ちゃんと伝えられないそ の子の代わりに、その子の思いを伝えてあげ たい…、などと、 遊ぶ子供の表情を観察してしまう事がある。 その、二人とも、きっと、 『とても、辛いから…』 なんて…勝手に、 心配したりもしていた。 梨沙が、『人たらし』で、 『渡る世間に鬼はなし精神』の、 チャッカリ者になったのには、 わけがある。 『私、  鍛えられたからなぁ…』 梨沙の生まれた家は、九州男児で...、 頑固な昭和男子の祖父と、 九州女の祖父母が同居し、 東京から程近いところに家が有るの で、都内の大学に通う、祖父母と同郷の、 ちょっとした知り合いの家の息子さんと、 娘さん、の、大学生が3人ほど、居候? 同居していて、 何だかいつも賑やかな、大きな家で、 梨沙は、男ばかりの兄弟の、 長男である父の「二人目の娘」として 生まれた。 昭和は、もう、昔で、「その考え」の 祖父が仕切る「家」では、 「長男が、家を、つぐ‼」 梨沙は…、 この家の長男の子供なので、 上の子が女の子ならば、梨沙は 「男」で生まれなければ        いけなかった…。 梨沙の祖母は、男の子をたくさん生んで、 父の兄弟は男ばかりの4人。父の弟の、 それぞれの家庭でも、なぜか…、 「男」兄弟の子が続いていた。 梨沙の従妹は、「男」ばかりだった。 これが、 どの様な事になるのかとのことは…、 梨沙と梨沙の母には、 かなり不幸なことになる。 『だって、  だってぇ~、  女ですから‼ フン、フン、  女が良いんですから〰♪』 『お・ん・な・だぁ~って~♪』 『ルルるぅ〰♪』 酔っぱらいは、 なんの曲を歌っているのか分からない… 梨沙が生まれたことで、長男の嫁である母は、 この家の中での居場所が、立場が悪くなった。 長男の嫁なのに男の子を生むことができない から…、 この家に、「弐番目の女」として生まれてしま った梨沙は、幼いながらに…、周囲の事が分か る、そう、気づいた頃には、 梨沙だけは、一緒に暮らしていた、 祖父の「傍」に居られた、 居させてもらえた、ことがなかった。 それが、当たり前のように…、 朝起きて、寝室から出てきた梨沙は、 朝のご挨拶、 「おじいちゃま、  おはようございます!」 も、祖父にすることが許されず、 同じ家の中で、いつも過ごす梨沙の居場所は、 祖父の居る部屋とは別の部屋、違う部屋で、 祖父の目に入らないように、 離されていた。 そうさせていたのは、梨沙の母。 梨沙の家の日常の家庭での食事も、 食事をする部屋の、 椅子は、「四つ」で、 螺鈿細工のテーブルは四角。 祖父母と父と姉で、 四角いテーブルの席がなくなるので、 梨沙と母は…、同じ時間に、 そこから離れたキッチンの横で、 他の者たち…、 同居していた大学生たちと一緒 に食事をした。 「おかあさん、いただきます!」 「いただきます!」 「いただきます!」 「いただきます!」 「はい、召し上がれ…」 母は、そこでは、一番、偉かった。 家の出入りでも、幼稚園にはいるまで、梨沙 は、家の玄関を使えずに、裏口の、「勝手口」 から出入りをさせられていた。 そう、母にきつく云われていたので…、 「ただいまぁ~、かえりましたぁ!」 「おっ! 梨沙ちゃん?お帰り‼」 「オジサン…、コンニチハ!」 まぁ…、当時は、この家にはたくさんの人が居 て、勝手口は、日ごろから、近くの店から配 達に来てくれる、 宅配業者さんや、おそば屋さん、お寿司屋さ ん、一緒に遊んでくれた同居人の大学生のお 兄さん、お姉さんたちも出入りしていたので、 梨沙は別に嫌ではなかったけれど…、 ダボダボのルーズな、 地味なグレーのスウェット上下の、 ルームウェアに着替えながら、 梨沙はボソボソと呟く、 結構…、 昔の事でも、 想い出すと、自分でも、 「違って」思えてくる。 『でも…、あの時は、  私、  分からなかったから…、  それは、どこの家でも、  当たり前の事だと  思ってたんダヨネ…』 梨沙は、ビールを片手に、仰向けに寝そべっ て、そんなに高くない部屋の天井をボォ~っ と、焦点を合わせずに眺めている。 寝ころんだまま、右手だけをバタつかせ、 スルメイカの入った袋を探している… 『うん…、あの時は…  おじちゃまとお出掛けして  良いのは、 「一番目に生まれた子」だけ  なんだと、  皆の家でもそうなんだと、       思ってたね…』 祖父は、デパートに、よく姉を連れて行き、 何でも好きな物を買い与え、姉は、屋上の展 望レストランで、「でっかいプリン」を食べる のが日課のようになっていた… あの頃、家長の祖父と、そんな「初孫」との 楽しい外出の時には、ワザワザ、水を差すよ うな顰蹙なことはをしてはいけないと、母と 梨沙はいつも留守番をしていた。でも、母は、 自分とは違い、 「おかあさんは、  リサがいなければ、  おじいちゃまたちと、  いっしょに、  おでかけできるの?」 などと、小さい梨沙は、申し訳ない気持ちに なる。 そう…、祖父は、そんな、徹底した考えは変え ずに、たまに母も必要になる家族の外出の時 には、それでも、絶対に、梨沙だけは連れて 行かずに、同居している学生に梨沙を預けて、 留守番をさせた。 『でも…、あの家では、  あの、祖父が居て、  あの、お姉ちゃんが居て、  あの、母だったから、  私、こんなカンジ…、 「タクマシク」なれたんだよね…』 梨沙は、 スルメイカを、齧りながら、 握りこぶしを創って、 ファイティングポーズを とってみる。 『シュッ、シュッ!』 でも、 チョッと動いただけでも、 クラッ!っとした。 フラツイタけど…、梨沙は、 ビールを飲んでいたのを忘れた? いや、飲み足らないと思ったようだ… 『なんだ…、  まだ倒れない…  私!  踏ん張れるじゃん…』 梨沙は、冷蔵庫に向かった… 梨沙とは違う、お利口さんな姉の、幼少期の お稽古事は…、 「お絵かき教室」「お習字」「そろばん」 「エレクトーン」「バレエ」「家庭教師」 この辺は梨沙にも記憶がある。 ちなみに、梨沙は、お稽古事はしていない。 経済的に、不自由なことが無い家庭で、梨沙 は、塾にも通ってはいない。 『でも、  お姉ちゃんが、  たくさんのお稽古事をして  いてくれて良かった、よね、  まぁ…、  いいとこどり?  って、考えればね…』       『プシュ‼       シュゥ~ワァ~!』 『あっ!泡…』 梨沙は、姉が大好きだった。とても、 お利口さんで、おしゃれな姉は、 梨沙の憧れ…、 「おねえちゃん、ダイスキ!  なんで?なんでも、  じょうずにできるの?  おねえちゃん、スゴイ‼」 梨沙は、姉の真似をしたかった。 姉が外出している時には、姉のお道具が、 梨沙のお勉強の道具になる。 そんな時には、梨沙のお勉強の時間になる。 「お習字」は、姉が練習した後に、ペールに 捨てられた半紙を拾いあげ、丸められた、 皺になったものを伸ばし、そこに書かれた、 姉の先生から手ほどきを受けた、添削付きの 文字を、 赤い訂正箇所を意識しながら、姉のお稽古で 使う、「お習字」の道具、その筆に「水」をつ け、シワシワの半紙を破らないようにそっと、 たとえ、ペールに入っていたものでも、絶対 に汚さないように注意しながら、 なぞり書きの練習をした。 決して墨汁や墨、新しい半紙は、使わない。 量が減ってしまっては、母に気づかれてしま うから。 「そろばん」も、姉の留守の間に、姉の部屋 に潜り込み、そっとお稽古バッグから出して、 姉の手本を見ながら練習し、姉が戻ってくる までに、完璧に、置いてあった場所に、 「置いてあったとおり」に戻す。 『ふっ…まるで、私、  忍者みたいだったね…』 梨沙は、通勤バッグから出した、 チーズかまぼこを咥えて、 忍者の構えを真似てみる… 通勤バッグに、 まだ、 入っていた… このチーズかまぼこは…、 常温保存? そう… なので…、 お稽古事は何一つしていなくても、 メデタク、 小学校時代は、少し優秀で…、 「夏休みのお絵かき」は、地元の子供を対象 にした小学生の部で大会に入賞し、市役所に はり出されたり、 冬休みの課題の「書初め」のお習字は、大企 業の地元にある本社のメインホールに、年始 の、仕事始めの賑わいに、お飾りと、共に、 出されたり、 国語の時間の作文は、市内の小学校から選り すぐられた作文を集めた「市の文集」に編纂 者のコメント付きで載せられたりした。 その為、それらの副賞では、シタジキやファ イルなど、大会のマークの入った、記念品の 様なものから、色数が多い絵の具や、60色の グラデーションに並べられた水彩ペンなども 頂けて、実は表彰状よりも… 初めての、「新品」のご褒美に、梨沙は驚き、 感動した梨沙は「お下がり」ではなく、新品 の物が使えるようになったことが、嬉しく、 とても有難かった。 「器用貧乏」なんて言葉があるけれど、 考えようによっては…、 べつに、プロになれなくても… とりあえず、 「為せば成る」?できるように、 なっておく… 梨沙の家は裕福だった。 自然を模した庭には、ワザワザ、九州の石も 運ばれて造られた、小高い築山が有り、 職人さんが配置を考えた、ビワの木、ブドウ の木、梅、八重桜の木は、果実や花の恵みも 多く、 季節ごとに、色の変化も美しいモミジや、 アジサイは季節感を出してくれていたし、 その築山との高低差を利用して、人工的に造 られた滝から、涼しげに、流れを創った水が、 心地よい音を立てて池に流れ込む、 石橋が架かった瓢箪の形の池には、キラキラ 光る鯉が泳いで、そんな池には、噴水の仕掛 けもあった。 この何年か前には、不景気な時もあったが、 そんな時でも、家の中では、あまり影響はな く、父は、仕事に出掛ける時には、会社から お迎えの黒塗りの車が来るほどの人で、 家の中の様子は、 純和風で、10畳、8畳と畳数が多い、和室ば かりで、部屋は、居室が12ほど。二間つづき の、お座敷の横には、 茶釜、茶器など茶道具の揃った、水屋と茶室 も有る家で、そこに続く廊下は、舟形天井に なっていた。 扉、室内ドア、天井と鴨居との間に設けられ る開口部の欄間には銘木の一枚板や、彫刻が 施され、重厚な造りになっており、扉は子供 には、開け閉めが重く感じられるほどだった し、 フカフカな外国製のカーペットが敷かれた応 接間には、大人でも重くて動かせない、応接 セットのマーブルのテーブルやヨーロピアン な猫脚のソファーが、 たびたび訪れる、来客をお迎えし、部屋数も 多いので、休日には親戚も、良く泊りがけで 訪れてきて、母には、呉服屋さんの御用聞き の中年男性もよく訪れ、家族の顔馴染みにも なっていたりしていた。 梨沙の幼い頃の記憶では、そんな、賑やかな、 華やかな家。 梨沙は外では、 「あの〇〇家のお嬢さん」といわれ、地元で は、いつも、「家」がくっついていた。 だから…、 そんな感じで、外では、「お嬢様」扱いでも、 家の中では、ひかえの者、目立ってはいけな い「影武者」みたいで、 なんだか、梨沙は、どんどん、その場その場 で、自分を変える、子になっていく。 そう、周囲に、される…。 決して、経済的に困っていることも無いのに、 「家の中」で、なぜ、このようなことが梨沙 に起こるのかは、本当に不思議だった。 母はいつも、梨沙との会話はほとんどなく、 用事を云い付けるときに、その「事」だけを 告げるだけの話し方をする、 そんな時にでも、梨沙から、母に対して「何 故」と、問いかけることもなく、この頃には、 もう、「母の強い思い」から、梨沙にだけ、 このようになっているのだと、勝手に感じる ようになっていた…。 梨沙は、 裕福な、大きな家の子、に、生まれても、 恵まれていなかった、幸せじゃなかった…。 『結婚…、  家庭を築く…、  って、なんだろう...』 『今思えば…、  母も、家の中での  身分が低くて、きっと、  お姉ちゃんよりも下で…、  母の下は…、私だけ、  だったの、かも、しれないね…』 梨沙は、とうとう、 この日は、眠れなかった… 『あっ!  スルメイカの空袋、  ちゃんと、  片づけなきゃ…』           カサ、カサカサ… 『でも…、まぁ、  long, long ago…  辛かったけど…、  私は、気長に…  王子様でも、  待ってみるかな…』 そんな、梨沙と同じに、 この日より、少し戻って… 茉由が、 本社への、出勤2日目の朝… blueな気分の茉由の一日が始まった 「あ~、気になるぅ~、  大丈夫かなぁ~、  あの人、今日、  帰ってくるのかなぁ~、  私が、居ない時に、  帰ってきたら…       嫌だなぁ~」 子供と母を連れて、せっかく、会社の人事 異動を理由に、夫から逃げ出したのに、再 び、会社の人事異動で、元の場所に戻る事 になってしまったなんて…、 そのせいで、再び、夫の許に戻った茉由は、 引っ越しが終わっても、やはり、家の中で 落ち着かない。 あの、不気味な、夫のせいで…、 夫は、茉由が関西から戻ってきても、茉由 や、下の子、茉由の母を待っているわけで もなく、先に戻っていたお兄ちゃんに伝言 を頼むのでもなく、スマホにも茉由への、 メッセージも、何もない。 「戻ってきたのを  知っているくせに…」 茉由は、自宅なのに、寝室に居ると…、 寝室なのに、休まらない… 「どうして、直接、  何も言ってこないの...」 ― 「初めまして、茉由の夫です。  ここで、外科の准教授をして           おります」 「初めまして、高井と申します。  茉由さんの、上司にあたる者です。  これは、妻です。茉由さんの、元、  上司でもあります。私たちは、  茉由さんと同じ会社の者です」 高井は、夫婦単位の挨拶で返した。 「今回は人間ドックと、会社に  は届け出がございましたので、  私たちは、心配は、  しておりませんでしたが、」 「夫婦共に、茉由さんとは、  お仕事を一緒にしております  ので、お見舞いにと、  思いまして、  顔を出させていただきました」 高井はどんな時でも動じない。 夫は穏やかな表情の、ま、ま、 「茉由の上司の方ですか?  お忙しいのに有難うございます。  ましてや、ご夫婦で来ていただ  くなんて、茉由は、お世話にな        りっぱなしですね」 夫は恐縮しながら頭を掻いた。 こんな、しらじらしい、社交辞令 が続いた後で、夫は、急に話を変 えた。 「そうそう、確か、今回の茉由  の検査入院の一日目にも、  貴方はいらしてますよね、  病棟クラークに記録が  残っていました。とても、  部下想いでいらっしゃる」 「貴方は高井さんでしたか?  高井さん?  あ~、この、ペンの、     高井さんですか?」 茉由の夫は、白衣の胸ポケットか ら、高井のボールペンを取り出し た。 ペンは今、 高井と、 高井の妻の亜弥と、 茉由と、 茉由の夫の、 4人の、前に、ある。 「これに、貴方の名が、  刻まれています、高井さん」 茉由の夫は、 高井に、 ペンを、 渡した。 いや、 返した。 「あ~、  ありがとぅございます。  探していました。    何故?あなたが?」 高井は、とぼける。 「はい、妻のドレッサーの  引き出しの中にありましたが、  私が、探し物をしている時に、  偶然、見つけてしまいまして」 「ほら、男性物でしたから、妻に  確認しようと、本日、自宅から  持ってきました。私たち夫婦は、         すれ違いが多く」 「御覧の通り、本日も、私は勤務  中ですから、茉由は一人で自宅  へ帰るのですからね、       持って来たのです」 「すれ違いが多いのですか……」 高井は、茉由の夫の言葉を、 一部だけ、繰り返した。 そして、何も、全く、困惑などせ ずに、サラッと、夫に言い返す。 「そうでしたか、男性物のペンな  んて、ご自宅に在ったら、  御主人は、ご心配されますよね、     しかし、ご安心ください」 「御覧の通り、私には、こんなに  美しい、賢い妻がおりまして、  しかも、私たちは、結婚した  ばかり。私が、よそ見をする       わけがありません」 「こうして、本日も二人揃って、  茉由さんの所へ来ているのです      から、なぁ?亜弥?」 高井は亜弥の後ろに廻り、両腕で 亜弥を自分の前へ案内した。 「はい、御主人?ご心配は、いり  ません。それに、茉由さんにも  失礼ですよ!疑ったりしては!」 亜弥は、良くできた妻だ。こんな 時にも、優しく微笑みながら余裕 を見せつけた。 茉由だったら、こんな対応はでき ない。 「営業担当」と、「接客担当」の レベルの違いが、こうしたところ でも出るのだろうか、 夫は、このしたたかな夫婦の前で も、穏やかそうな表情を変えない。 こんな、お互いの探り合いを続け る会話の中でも、表情が変わらな いままなのは、茉由には少し、 冷たくも、感じる。 「そうでしたか、茉由は少し、  幼稚で、甘えん坊のところが  ありますからね、ご覧の通り、  仕事柄、私が忙しくしている  もので、寂しくって、よそ様に  甘えてはいないかと、少し、  心配でしたもので、これは、  失礼を致しました、奥様にも  失礼でしたね、こんな話は」 「あ~、嫌味のように聞こえる」 対峙する、この三人より少し離れ たところに居る茉由は、居た堪れ なくなってきた。茉由が、一言も 発していないのに、この三人は、 そんな事は何も気になどせずに、 自分の強さをアピールしているの が、イタイ。 「いいえ、本日は、突然伺いまし  て、こちらこそ、  失礼を致しました。  お気遣い迄いただきまして、         恐れ入ります」 なんだか、亜弥さんと夫の、嫌味 の応酬みたいになっている…。 茉由が高井の方を見てみると、 さすがに、高井もこの亜弥の強さ にはタジタジなようだ。少し斜め 下に、目線を逸らしたままだった。 夫は、これは、本心だろうか、 亜弥の応援もあったせいか、 素直に、高井の言葉を信じたよう だった。 それに、茉由に対する気持ちだっ て、コンナコト、本当に思ってい るいのかどうかも分からない。 「放っておかれている」のだけは、 本当だけれど。 険悪とまではいかなくても、皆、 居心地は悪い雰囲気は漂っていた。 茉由が一人だけソファーに座り、 皆は、立ちっぱなし、 高井が急に話に戻ってきた。 「さて、それでは、これで!  茉由さんも疲れてしまいますし、  ご主人も、お仕事中で、お忙し  いでしょうから、私たちは、     この辺で、失礼します」 「茉由君、ごきげんよう……」 高井は、ここでも、リーダーだっ た。スマートに、話を締めた。   ― 茉由は、 気にしている。 この検査入院の時の、その入院最終日に、 茉由の病室で、高井と対峙した夫の、高井 を挑発する、そんな夫の言いぐさの中で、 夫が、自宅の寝室で、茉由の居ない時に、 勝手に、茉由の物を弄っているのを知った 茉由は、忙しいはずの、仕事に出掛ける前 なのに、何度も何度も、寝室の様子をチェ ックする。 「まさか…、盗聴器とか、  隠しカメラはナイヨネ…」 茉由は、引っ越しのtimingで、 寝室のクロゼットの中の服は、 ビジネススーツを増やした。 もう… 自分の部屋なのに、生活感が無い、 モデルルームの様になっている。 ゼッタイに、あの、不気味な夫から、 疑われないようにする。 そして、何か仕掛けられないように、 茉由なりに考えて、隅々まで、 見渡せるように工夫した。 コンセントに「ナニカ」ついていな いか確認し、ベッドの下を覗き込 み、家具をどかし、部屋の隅々まで、 チャント、チェックした。 茉由は、寝室の中で、何度も、 振り返ったり、 そこから出てきたと思ったら、 また、寝室へ戻ったりと、 何度も何度も繰り返し、 変な行動になっている。 「本当に、  不気味で、怖い…」 「私が居ない間に、  この部屋で何をしているの?  あ~、仕事に往きたくない…」 会社へ行くはずなのに、いつまでも、 ジタバタしている娘を心配し、 過保護な母は、茉由に付きっきりになる。 「茉由ちゃん?   時間、大丈夫なの?   もう?  出なくて、イイの‼」 「はい!   分かってますぅ…  もう、往きます‼」 母に急かされても、スマホを片手に、 それでも茉由は落ち着かない。 「お母さん? 私、往くけど、  もし、私の留守中に、急に、  あの人が帰ってきたら、     電話ちょうだいね?」 「ワカッタワヨ!   どうしたの?  なにか?用事なの?」 「良いから!   電話、頂戴ね!」 「はいはい…」 母は不思議そうな顔のまま、茉由の 背中にくっつき、どこまでも行動を 共にする。茉由と一緒に、駅に向か う道路にまで出ると、ようやく止ま り、手を振り送り出した。 それでも… 今朝はドンヨリとした曇り空、外に出た 茉由は、気分を変えようとトボトボと歩 きながら、空を見上げ、深呼吸をしたが、 スッキリしない。 「なんだか…、  空気まで重い...」 あんなに母に急がされたのに、駅に向かう のにも、ユックリと、なんだか、フラフラ し、真っすぐに歩けていない。 …どうしよう、 ゼンゼン…、 仕事に往きたくない…、 留守中に…、 あの人が帰ってきたら? …寝室で、 また、勝手に…、クロゼットや、 ドレッサーの引き出しを開けられて…、 チェックされていたら、 どうしよう…、         どうしよう… 茉由は、仕事に向かっているのに、夫の事 が気になって、ゼンゼン、前向きになれな い。混雑する通勤電車の中でも、何度も、 同じ事ばかり、考えている。               ガタン!ガタン、ガタン… 「お母さんに、チャンと、  言った方が善いのかなぁ~」 また、 頭の中がグジャグジャしている。 茉由の、本社出勤日、2日目。 何だか、 また頭が重い。新しい仕事につくのだか ら、まずはチャント、仕事の事だけ考え なければならないのに… こんなに、 家の中の事も気になるし… 本社に着いても、茉由は、まだ、 落ち着かない…、 でも、 新しいstaff達に、そんな、 不安な顔を見せられない茉由は、 努めて、明るく、 研修会場に、登場したのだが… 「おはようございます!」 「おはようございます」 「おはようございます」 「おはようございます」 「おはようございます」 「あれ? 皆、早い…」 茉由は、少し、焦る… 「あっ!お見えになりました…」 「おはようございます。  茉由さん、朝礼を  お願します…」 茉由が登場すると、desk上の電話を終わら せて、出社してすぐの、茉由を、やたらと、 急がせる… 「あのぅ…?  茉由さん?  朝礼の時間…、  です、けれど…」 「もう? 朝礼?」 不思議そうな表情の茉由の事を、 朝から、得体の知れない新生物を見る様に、 怪訝そうな表情で覗き込む彼女は、 「田中真凛」 入社5年目の、主任。 真凛は、「マリン」と、カタカナが似合う。 彼女はハッキリとした目鼻立ちの、それに、 モデル体型でperfect!端正な面持ち、聡明 さ、いつもキチンとした女性。賢く、ここ の業務を抜かりなく行える。 こんな女性が、茉由の近くに居れば、高井 も安心する。高井が忙しい時には、このマ リンが、ここを纏められる。 今朝も… さっそく、茉由は、missをおかした。 この研修会場は、本社。 その、営業本部、 業務課のあつかい。 茉由はここの、「係長」。 マリンは主任。 その、マリンから説明を受ける…。 「あのぅ…、ひょっとして?   茉由さん、出勤時間、  知らなかったんですか?   ここは、営業本部と一緒の、  朝8:30出社、です、けれど…」 「えっ?  ぇえ~ ‼」 茉由は、後ずさりした、 知らなかった… …なんで、 GM教えてくれなかったの‼… もう…ここの仕事も分からないし… なんだか、やりにくい事ばっかり… でも…、 私がちゃんと確かめなかったから いけないのかなぁ… 「そう?なのぉ~!」 茉由は、ジワリ、ジワリ、用心深く、 もうこれ以上、何も間違えない様に、 自分のdeskに近づき、 通勤バッグをドサッと置くと、 バツが悪そうに、力なく、staff達 にお愛想笑いをしてみる… …あっ!そう、だぁ… だから、昨日、私が 出勤した時に、皆そろっていたの? だから、GMも、もう居たの?…  ゲッ!気が付けばよかったァ~、 GMだって、その場で 教えてくれればいいのにぃ~… な・ん・で・も、人のせい? 茉由は、甘えている。 本当に、こんなに、 ヌケテイル人が、ここ の責任者になったなんて… ここのstaffは、オキノドク… 茉由は、立ち竦む。 9時出社だと思って、 8:40に堂々と、 出社した自分が恥ずかしい… 「スミマセン…」 いきなり、部下に頭を下げる。 「……」 茉由と、マリンは、一瞬固まる。 周囲のstaffたちは、茉由と 目を合わせない様に気を遣う… マリンは、 両手を大げさにバタつかせ… 「イエイエ…、まだ、  二日目ですから…」 営業用スマイル付きのマリンは優しい。 マリンには、一瞬で分かってしまった。 「優しくしないと、この人は、厄介だ」 と、 まぁ、出社一日目から、怪しかったが… 茉由の天然さは、隠せない。 「あの? でしたら、  先ずは私の方から、  ここのstaffを紹介しますね?」 茉由は部下に対して、ただ、ただ、 申し訳なさそうに、素直に頭を下げる、 「お願いします...」 「はい!承知しました…」 マリンは、素敵な笑顔だ… 気分を変えて、 朝の爽やかさを出し、 明るく、staff達を、 安心させるように手招きする。 「さぁ~、皆さん?   並んでください!」 これはスッキリ…、 「まとめる立場の者に相応しい」、 ハリのある声、マリンの呼びかけに、 staffたちも、茉由の前に整列した。 ここのstaffは、 今、爽やかな対応をした、 社員で主任の田中真凛、それと…、 派遣社員の、やはりperfect bodyの 「奈美恵」と、世渡り上手な「乃里」 と、清楚な色白和美人の「沙耶」、 そして、マリンと、現場を行き来する、 この会社の、現場の仕事を何でもできる、 技術職、フリーランス契約の、「結奈」 この、5名が、茉由と一緒にここで働く。 どこかで、見かけた?ことがあるここの staff… 高井は、流石、GM。 スキが無く、ムラや無理、無駄もない。 高井は、 茉由に近寄る者が出ないように、 周りを女性だけにするし、 煩わしいと感じている茉由の同期たち から、茉由を離すだけではなく、 チャンと、ここのstaff、皆の事も、考えて いる。 ここのstaffの、 結奈は、前回、高井が、茉由に腹を立てて、 自分を分からせるために、これまでか、と、 やらかした大事の中で、トバッチリを受け、 可哀想だったので、高井は、帳尻合わせ に、手を差し伸べ、仕事が継続できる、 安定したこの職場に入れた。 そして、 奈美恵と沙耶は、前GMの失脚劇の役者。 「大女優」だった。 前GMの失脚後も、 そのままの場所で残って仕事を続けるのは、 本人たちにも辛い事だろうと考えた。 そんな、 悪の強かった、前GM(部長)。 その後に、 颯爽と現れた新GMの高井は、 前GMに雁字搦めにされていた、 ここの、 傷ついていた者たちからしたら、 新しい場所へ逃がしてくれた、 そこから解放してくれた… 救世主かもしれない…。 全く高井は、悪運?が強い? 前GMに、 関西へ飛ばされていたのは、 たった半年。 その、たった半年で、 その、飛ばされた事のおかげで、 前GMの失脚劇を、興じる事が出来、 高井は、リベンジに成功した。 そして、それ、だけではなく、前GMが、 こんなにも、あまりにも、営業本部で、 悪評だったために、前GMを堕として、 追い出した後に入っても、 高井は、全く、悪評がたたなかった。 高井は、クールで、口数が少ないが、近頃 では貴重品の、ムスクのコロンが似合う、 男臭い昭和な色男で、スタイルも、容姿も 完璧な、実はモテ男。 だから、たまに、 穏やかな、物分かりの良い、 上司の貌で、ここに登場されたら、 この女性だけの職場では… これから…、 どんなことが起きるのだろう… でも、 鈍感な茉由は、 そこまで考えられない…、 目の前の事で、 イッパイイッパイ… なんとか、 朝礼もマリンに助けられ、 やっと、 仕事が始まったばかりなのに、 ここの「長」のdeskに座っていても なんだか、落ち着かない。 この職場、ここにある、 防犯?監視?cameraが、 「高井の目」のように感じ…、 茉由は、落ち着かない。 ここには、あちらこちらに そのcameraがある。 マンションギャラリーにもたくさんあった、 cameraの役割を茉由は理解しているから、 ここの誰よりも、それが気になる。 高井が居る場所は、ここのすぐ上のfloor、 その部長席には、PCが置かれており、 monitor check ができる。 PC画面を、16分割にすれば「16の目」で、 高井は、自分のdeskから、この会場を監視 できる。 茉由には、 そのcameraのレンズ中に、 deskに斜に構えた、 顎を右斜め上にあげて、 目を細めている高井の貌が見える。 実は…ここは、そんな、 「窮屈…」な、職場。 だから、今朝も、 茉由が登場するまで、 マリンが電話で話していた 相手は、GMの高井だった。 「おい!茉由君は?どうした?」 「はい、おはようございます!  GM? あのぅ…、  茉由さんは、まだ…、  出社されていませんが…」 「なぜだ?」 「さあ? 私は、  何も聞いておりませんが…、  あっ!お見えになりました‼」 「…なら善い!」 「はい、失礼します…」 こんなカンジで、 この、防犯?監視? cameraのせいで… 今朝の茉由の遅刻を、 ちゃんと、 高井は、知っている… 高井は、忙しく、 deskから離れられなくても、 しっかり、 離れている会場の状況も把握でき、 「遠隔操作」もできる… それに… この高井とマリンの関係… これからも、高井は、仕事の指示はマリン に出すのだろうか、茉由は、本当に、 お飾りになってしまう?のか、 それに、パーフェクトボディの、 目鼻立ちのハッキリした美人の奈美恵に…、 癒しにもなる、もの静かな、 陶器の様な色白和美人の沙耶に… (情報屋の乃里と、頑張り屋さんな結奈は、 カッコの中だけど…) これは…、なんだか… とても、厄介な?…、関係… 茉由は本社勤務になってから、梨沙や、咲 と近くに居ることになり、昼休憩には、 3人でのlunchは楽しみになるはずだった のに、今日は…、 都会のオフィス街のlunchは、 店にすんなりと入れればラッキーで、 それもテラス席なんて…、 テーブルには、 フレンチ サンドウィッチと、 甘すぎない アップルスパークリングサイダー 休憩時間は、短いし… チャンと座れたし、 テラス席だし、 皆の顔が視れたし… 甘すぎない、 スパークリングサイダーは、 スッキリするし… だから、 咲と梨沙は、上機嫌! でも、今日の茉由の職場の様子を、 何も知らない、そんな二人が、 「茉由!  昇進おめでとー‼」 「オメデトウ!」 「…うん」 乾杯されても… …恥ずかしいぃ… 茉由の「係長」昇進を褒めて くれたりしたもんだから、 こんなに…、 locationはイイカンジなのに… 茉由は、 よけいに、 落ち込んだりしている。 なんだか… 気分がスッキリとはしない。 胸のあたりが、ザワザワする… 茉由は、 絶不調の、blueのままだった。
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