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リハビリ
その男は非常にこと永く小説から離れていた。
つまらないから、才能がないから、努力が続かないから、だから向いていない。そう自分にとにかく理由をつけ言い訳をつけ小説から執筆から逃げていた。
その間はiPhoneやらiPadやらゲームやイラスト描きに没頭し、仕事にも仕事をしなければという言い訳で小説から逃げていた。
そう、その男は言い訳だけの人間だった。卑怯で長く続かない口だけ人間だ。しかし、ある日、男は電化製品店でiMacを見て「おお、でっかいなこのパソコン。イラスト描きにも仕事にも使えそうだ。よし買うか」と至極単純に高い買い物をした。
その後は言葉通りにイラストを描いたり、動画を大迫力の画面で見たり、とにかく満足そうに男はしていた。
しかし、iMacには「iBooks Store」というものがあり、漫画や小説が読めることに気づきiPhoneにもその機能があることに今更ながら気づいた。
そしてそこに太宰治の「走れメロス」があり。懐かしいなあと思いながら無料だったのでダウンロードをして読んで見た。
最初は軽い気持ちだった。小説なんて久しぶりだが自分にはもう関係ないとほぼ完全に諦めていたので、軽く読もうと思った。
だがしかし、そこは偉人の文豪。その男に勇者メロスの生き様、そして親友との紛れもない愛と誠の真の友情の光景を男の脳裏に鮮明に、こと鮮明に映し出され、その文章力の高さ、そして構成の次元に嫉妬しそして感銘を受け久々に筆を取ろうかと思ってしまった。
とはいえ、随分長く執筆をしていなかったので、まずはとある小説サイトに執筆をして見た。構成も話も何も考えず書こうと男は思ったのだ。
自分の才能がどのレベルかを確かめるために。
しかし、男は驚いた。iMacでは動画やイラスト描きばかりでロクにキーボードを触っていなかったが、打音と打感が至極気持ちよく、嗚呼…これは良いなあと思い、気がつくと画面いっぱいに文字で埋まっていた。
男は非常に驚き、そしてまだまだ執筆は頑張れるなと改めて確信し、文豪太宰治とiMacを買うきっかけを偶然に作った神か仏に感謝して、改めてその書いた小説にタイトルをつけた。
「リハビリ」と。
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