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第1章
ー紀元前 500年 春秋時代ー
霧に覆われ雲海が眺望出来る『舜山』という
神山があった。
まだ人と神が交わり暮らしていた神話の時代に
天女が舞い降りたとされるこの神山の
山頂には俗世から離れて生きる者達がいた。
「叡、もう日が落ちた。今夜は寝ろ。
明日また猪を二頭ばかり狩って貰うぞ。
もうじき冬だ。雪が積もって桟道が
使えなくなれば下山する事も能わぬ
備蓄食糧に頼らざるをえない。
干し肉がまだ足らんのだ。」
葦と藁を積み重ねて
屋根を泥で固めたあばら屋の中から
父の声が聞こえる。
「あぁ…分かったよ…」
表で野兎に餌を食べさせていた叡は
その声を聞いたが心此処に非ず
気の無い返事をした。
風が僅かに砂煙を運んでいる。
女人の寝息が如く細やかな風なれど
秋風の寒さは身に染みる。
父は好まぬであろうが
叡は竹檻に入れた野兎を
今宵はあばら屋の中で休ませる事にした。
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