第1章

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加えて父が今宵磨いでる武器は暗器(あんき)と呼ばれる 衣服に隠せる短刀や飛び道具ばかりである。 剣や槍の手入れは一切しない。 それ(すなわ)ち殺める相手が 武器を隠して近付かねばならない 将軍や宰相、国王といった高貴な人物 である事を物語っていた… (父は…生きて此処(ここ)へは帰らぬやも…) 叡はその憂いが拭い去れぬまま 枕元の(そば)で寝ている野兎の毛並みを撫でながら 気づかぬ間に眠り落ちていた。 翌朝、雲海から顔出す太陽の目映い光が 舜山を照らし出す頃 叡が目を覚ますと父の姿は既に無かった。 慌てて表に出るも濃霧に覆われた山中で 人影を探すことも(あた)わず 諦め帰路に()こうとすると 蒼天の澄みきった空から天気雨が降りだした。 (あぁ…天が()いている… 人を殺め続け、最後には自らの命も捨てねば ならない我等父子の宿命を(あわ)れんで おるに違いない…) 天を仰いだ叡の頬に流れ落ちる涙は 雨と混じり彼の渇いた心を癒してくれた。 涙を拭い去ろうと(まぶた)を閉じた叡の脳裏には 父の記憶が走馬灯の様に甦っていた…
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