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加えて父が今宵磨いでる武器は暗器と呼ばれる
衣服に隠せる短刀や飛び道具ばかりである。
剣や槍の手入れは一切しない。
それ則ち殺める相手が
武器を隠して近付かねばならない
将軍や宰相、国王といった高貴な人物
である事を物語っていた…
(父は…生きて此処へは帰らぬやも…)
叡はその憂いが拭い去れぬまま
枕元の傍で寝ている野兎の毛並みを撫でながら
気づかぬ間に眠り落ちていた。
翌朝、雲海から顔出す太陽の目映い光が
舜山を照らし出す頃
叡が目を覚ますと父の姿は既に無かった。
慌てて表に出るも濃霧に覆われた山中で
人影を探すことも能わず
諦め帰路に就こうとすると
蒼天の澄みきった空から天気雨が降りだした。
(あぁ…天が哭いている…
人を殺め続け、最後には自らの命も捨てねば
ならない我等父子の宿命を憐れんで
おるに違いない…)
天を仰いだ叡の頬に流れ落ちる涙は
雨と混じり彼の渇いた心を癒してくれた。
涙を拭い去ろうと瞼を閉じた叡の脳裏には
父の記憶が走馬灯の様に甦っていた…
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