グッバイ青春、よろしくピンキー

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 家を出た瞬間、俺は愕然とした。外の光景も大変なことになっていたからだ。  だって会う人、会う人、小指から赤い糸が伸びているんだもの。地面に垂れ下がって、一面、タコ足配線みたいに無数の赤い糸でぐっちゃぐちゃ。前を歩くカップルは垂れずに小指同士で可愛らしく繋がっていて、そよ風に吹かれて気持ち良さそうにゆらゆら揺れている。  ちょっと目眩がしてふらつき、思わず顔に手をあてた。ああ、そうか、そういういうことか、ってあんまオツムの良くない俺でさえ、この状況をなんとなく理解しちまった。多分これって、いわゆる『運命の赤い糸』ってやつだ。  きっと気まぐれな神様が暇潰しに俺に授けた能力なのかもしれない。確かそんな漫画あったよな。あ、アレは死神が寿命と引き換えに他人の命の時間が視える能力を与えるやつだから、ちょっと違うか。  だけど、冷静に考えてもかなり非現実的なこの状況なのに、少し時間が経ったら俺は普通に受け入れ始めちゃっていた。適応能力高くね?  まあ俺といえば、心がサバンナくらい広い、いわゆる能天気ボーイだから「むしろ俺、選ばれちゃった?」なんてむしろ少し興奮してる。なんか中学2年生の頃の俺に戻った気分だ。  でもちょっと残念なことがあるんだよ。だってさ、自分の小指には赤い糸なんて結ばれてなくて、ちっとも視えないんだもの。おい、神様さん、せっかくなら俺のも視えるようにしておいてくれよ。  そんな不思議体験に最初はウキウキしていた。だけど、学校行ってすぐにそれが絶望に変わっちまったんだけどね。  それから1週間経って話は戻るんだけど、俺は依然と赤い糸が視えたままだった。学校の中も赤い糸だらけ。誰もが赤い糸を垂らしてどっかに伸びていた。もう本当に勉強するどころじゃなかったよ。 ……あ、元々、授業なんて聞いてなかったわ。  とにかくこの1週間、ひたすら観察してた。やっぱりこれは『運命の赤い糸』に違いない。
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