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「羽田さん、あちらのお客様の対応お願いします!」
「あっ。はい!お待たせいたしました。こちらは今月入荷したばかりの新作でございます。」「ありがとうございました。またお越しくだいませ。」
「ねぇ羽田さん、今日前髪おろしてるの珍しいわね。」
「実は最近お肌の調子がよくないんです。今日はおでこにもニキビができちゃって、実は前髪で隠してたんですよ。」
「隠したくなる気持ちわかるわ〜。ついファンデーションで厚塗りしちゃたり。」
「先輩もわかります?そうなんです、たまに気になって触っちゃたりして。肌荒れって気分下がりますよ。」
「その気持ちもわかるけど、今は仕事中だからあんまり気にしないで。キレイなアクセサリーを販売してる私たちの顔が澱んでちゃダメよ。」
「はい。」
とは言いつつも、ショーケースの映る自分の顔がやっぱり気になる。
以前から度々大人ニキビに悩んでいたエミ。髪で隠したりファンデーションで隠したりと自分なりに目立たないようにしていたが、ここ最近、日に日にニキビが増えてきていた。
「ぷはー!お疲れ様。今日もがんばった〜」
「あれ、エミどうした、そのニキビ。いつまで青春してるんだ?」
「はぁ〜(ため息)うるさいなぁ。もうその言い方、古いから!」
「そういやエミって学生時代から肌荒れてる事からかうと怒ってたよな。」
「もうほっといてよ。」
「いつも夜中に甘いものいーっぱい食べてるし、しかも夜な夜な韓国ドラマ見てるだろ〜最近不規則な生活続いてると思ってたよ。」
「ユウヤなんて学生時代からどんだけ太ってきてるのよ、人のこと言えないでしょ!」
夫のユウヤとは大学時代から交際し、社会人4年目で結婚。お互いを家族として大切に思い暮らしている。ただ恋人気分はすっかりなくなり、好きだ愛してるの言葉なんていつからかお互い言わなくなった。エミはそんな夫と違って優しい言葉を常にかけてくれそうな韓流スターにハマっている。
(あの頃はこのドラマみたいなセリフ、少しは言ってくれたのにな•••)
【TVで韓流スターのセリフ『キレイだよ』】
「きゃー言われたい〜♡かっこいい〜!!」
「はいはいはい。もういい加減寝なよ。」
一日の家事や雑用を済ませてゆっくりできる夜中、憧れのジュン様が出ている韓国ドラマを見ながらお菓子を食べること。これがエミにとっての至福の時間だ。
「うちのブランドのアンバサダーが韓国の俳優のジュンさんに決まったそうよ。人気あるし話題になって良いかもね。」
「え〜!!!!先輩それ本当ですか!?ってことは、いつか日本でのPRが
あったらお会いできることがあるかもしれないですよね!そうですよねっ!!」
「え、そ、そうね。日本に来るとは聞いてないけど、ないとは言えないわね。そういや羽田さん、韓国ドラマにハマってるっていってたわね。」
「はい!しかも私ジュン様の大ファンなんです。」
近い未来、ジュン様にお目にかかれるかもしれないと希望を思ったエミは、その時の為にキレイになりたいと思いはじめた。エミは独身時代から比べると少し体重が増えているのを自覚していた。
「ユウヤ、私今日からダイエットするから。もちろんお菓子断ちするから甘いもの買ってこないでね。」
「急にどうした、昨日言った事気にしてるのか?」
「違うわよ、仕事でジュン様に会えるかもしれないのよ!ううん、きっと会えるに決まってるわ!」エミは熱しやすく冷めやすい性格だ。いつものことだとユウヤは思っていたが、体のことだから無茶しないかと少し心配になった。熱量が高い状態のときに何を言っても止まらないことはわかっていた。
「よくわかんないけどその気合、いつまで続くかね。あんまり無理すんなよ。」
「うるさいなぁ〜。いいのよ、ジュン様〜待っててねー!」
ジュン様が出ているTVに手を振るエミは夫そっちのけでジュン様ハイになっていた。
よし、まずは痩せなきゃだ。そう思ったエミはてっとり早く単品ダイエットをやり始めた。その生活を数日続けていると、体にある変化が出てきた。
(あれ、いつの間にかまたニキビ増えてる〜。もう潰しちゃおうかな。)
「ダメダメ。潰しちゃ。」
「あ、先輩。潰しちゃいけないのわかってはいるんですけどやっぱり気になっちゃって。」
「それよりちゃんとご飯食べてる?なんか羽田さん急に痩せてない?」
「ダイエットしてるんです。今単品ダイエットしてて•••」
「それ一番ダメなやつよ。お肌にもよくないでしょ、第一身体にもよくない。」
「わかってはいるんですけど、早く結果を出したくて。」
「ご飯はちゃんと食べなきゃ。体調崩しちゃったら元も子もないでしょ。」
「たしかに疲れやすくなったし、肌荒れが酷くなったかもしれません。」
「必死なのはわかるけど、いつの日かジュン様に会う時は、羽田さんの一番いいコンディションで会いたいでしょ?」
うんうんうんうんとエミは激しく頷いた。
その夜、TVから【芸能ニュースの時間です。日本でも人気の韓流スターのジュンさんが結婚を発表されました。お相手は韓国で人気若手女優の•••】
「えーーーーーーー。ウソーーーー。いやーーーーーー!!!!もういい!!ダイエットやめます!もうやけ食いするんだから!」エミはお腹が空いていたのか冷蔵庫の食糧を漁り始めた。
「エミちょっと落ち着いて。ショックなのはわかるけど。」
「芸能人だし、私とは何の接点もないのわかってます!でも私のジュン様が結婚だなんてぇぇ。」
「エミがジュン様に会うときのためにダイエットしてたのもわかってたからガッカリする気持ちも分かるよ。だけどそれより俺は、今まで単品ダイエットして、次にやけ食いするエミの体が心配だよ。俺からみてもエミの肌は荒れてるし、ダイエットはもういいから、ちゃんと生活戻そう。」ユウヤはなだめるように優しく言うと、エミはとにかく何でもいいから食べようとしていたことから我に返った。
エミは単品ダイエットをやめた。だけどまた以前のように体重が増えるのはどうかと思い、基本に戻って規則正しく生活することにした。
まずは食事は栄養のバランスよく。お菓子は控えめに。
ガサツだった肌のスキンケアも丁寧にするのを心がけた。
苦手な運動はお風呂上がりのストレッチから始めた。
夜な夜な観ていた韓国ドラマは休みの日にまとめてみることで睡眠不足解消。ジュン様が結婚してもやっぱりジュン様が出ている韓国ドラマは大好きだ。
そばで見ていたユウヤも、自身の運動不足を感じていた為エミを見習って一緒にストレッチを始めた。
そんな暮らしに段々と慣れてきて、エミは以前より体調が良くなり気分が軽くなるのを感じていた。そして一番の変化は肌だった。
(あ•••肌がキレイになってきた。)
ニキビが治り、以前のようにおでこを出すヘアスタイルに戻した。
「羽田さん、最近キレイになった?毎日見てるけど、日に日にお肌キレイになってる。」
「先輩、あの時はご心配をおかけしました。ジュン様に会うときのためにって無茶なことしてましたけど、もう規則正しい生活にも慣れて、今すごく調子良いです!」
「今ならジュン様がいつ現れてもいいのにねっ」
「前ほどの熱量無くなりましたけどね〜またいつか会えればいいですね。」
まだまだジュン様ロスが世間では起こっていたが、エミはもうすっかり落ち着いていた。
「ユウヤ、そろそろ一緒にストレッチしよう!」
「なぁエミ•••ん〜なんもない。」
「なに、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。」
「エミ、最近キレイになった?」
「え?」
「んー、ちがうな、はっきり言う。エミ、最近キレイになった。」
「どうしたの急に」
「いや、本当に思ったんだよ。前よりキレイになった。」
「あ•••ありがとう。」
驚きと照れがあったけれど、ユウヤの嬉しい言葉を噛みしめたあと、
「ユウヤ、ありがとう。嬉しい!」
エミのキレイな肌に笑顔がとてもよく似合った。
【おわり】
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