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彼のことは、高校二年に進級したときころから、ちょっといいな、と思っていた。だから、声をかけてくれたのをきっかけにして、「数学、教えて」と甘えることにした。具体的には、週に二回、高校から歩いて五分くらいのところにある図書館に行って、教えてもらっていた。
それが、今日は、図書館に行ってみたら、臨時休館になっていた。残念がるあたしに、音哉くんが、
「じゃあ、オレんち、来る?」
なんて言うから、いそいそとついて来たのだった。
家では、音哉くんのお父さんが在宅勤務で仕事をしていた。あたしはよい印象を持ってもらえるように、ていねいにあいさつした。
音哉くんの部屋は、洋間で、広さは六畳くらいあった。急にやってきたにもかかわらず、すっきりと片付けられていた。ゴチャゴチャしたあたしの部屋とは大違いだ。
音哉くんが食堂の椅子をひとつ持ってきた。あたしは、机に備え付けの回転椅子に座らせられた。音哉くんが、その横で食堂の椅子に腰かけ、あたしたちは勉強した。ていうか、一方的にあたしのほうが教えてもらった。
そうして一時間ほどたって、きりのよいところで帰ることにした。あたしの集中力が続かないし、図書館でも、いつもこのくらいでやめていたから。
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