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あたしが立ち上がり、音哉くんが立ち上がった。
音哉くんがよけてくれるかと思って、一歩踏みだしたら、予想外にその場から動かないものだから、彼の胸に顔がぶつかりそうになった。
「え?」
音哉くんが、じっとあたしのことを見つめている。うるんだような眼差しだ。
「か……佳奈……さん」
かすれた声であたしの名を呼び、おずおずと手をあたしの肩にかけてきた。
(え? なになになに、このシチュエーション?)
あたしはあせった。ほっぺが熱くなるのがわかる。これって、つまり、アレでしょ? カレシとカノジョが、っていうアレ?
もちろん、そのうちに、とは思っていたけど、こんなに急に? 実は、まだ心の準備が。心の準備が。
そんなふうに胸をドキドキさせている間にも、音哉くんの顔が急速に近づいてきて、あたしは自然に目をとじ、顔を少し上へ向けた。
あたしの唇は、やわらかいものでふさがれ、背中をギュッと抱きしめられたのだった。
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