ファーストキス

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「へえ、音哉くんのお父さんって、かっこいいね」  あたしが、たったいまご挨拶したお父さんのことを絶賛すると、音哉くんはこともなげに言う。 「そう? 別に、普通のオヤジだけど」 「そんなことないよォ。あたしんちの父親なんて、グータラで、家んなかでゴロゴロして、いっつもお母さんにブーブー言われてるんだから」 「それは佳奈さんのお父さんが、家では休憩モードだからじゃない? うちのオヤジは在宅勤務で、いま仕事モードだからね」 「そうかなあ……」  そんなふうに言われても、キリッと引き締まった音哉くんのお父さんと、ゆるみ切ったうちの父親を頭のなかで比較して、あたしは釈然としないのだった。  あたしはいま、音哉くんの家の、音哉くんの部屋に来ている。  家にお邪魔するのは、今日が初めてだ。  音弥くんとのきっかけは、三週間くらい前のことになる。放課後、親友の千夏が部活している間、あたしは教室で、宿題に出された数学のプリントに、うんうんうなって取り組んでいた。そこへ音哉くんが、「こうやればわかりやすいよ」と声をかけてくれたのが始まりだった。
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