ランドセル(前半)

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僕は6年3組、剛田 康介。 のランドセル。 彼の苗字は 某アニメのガキ大将とお揃いだ。 それなのに身体の線は細く、 僕を背負った後ろ姿は まるでランドセルが宙に浮いている かのように見えてしまう。 性格も引っ込み思案で 表立ったことは好まない。 そのせいで幾度となく クラスメイトにからかわれてきた。 何かと言えば枕詞は 「剛田のくせに」だった。 でもそんな彼のことが僕は好きだ。 彼は"モノを大切にする心"を 持っているからだ。 康介の父は革靴を作る職人で、 彼は幼い頃から作業場を訪れていた。 あれは康介が小学校に入学する ひと月前のことだった。 作業場から帰宅した父のもとに 康介が駆け寄ってきた。 「いい匂いがするね。」 「お、さすが俺の息子だな。 康介は革の匂いが分かるんだな。」 手に握られた大きな包みの中身は 目視では確認できない。 ひょっとすると、 単純に食べ物だと思ったのかもしれない。 台所からはホワイトシチューの 優しい香りが漏れている。 とはいえ、父の言うとおり 作業場で嗅いだ革の匂いが、 彼の鼻を敏感にさせたのだろう。 「康介に絶対似合うと思うんだよな。」 そう言いながら包みの包装を破ると、 漆黒の艶を帯びたランドセル、 つまり僕が出てきた。 「わぁ」 康介が目を輝かせて 僕を見つめてくる。 「康介、今から大事なことを言うから よく聞いてくれ。」 父に倣って正座をして 向かい合った。 「モノにもな、 人や動植物と同じように命がある。 だから父さんや母さんが 康介を大事に思っているように、 康介はモノを大事にして欲しい。 約束できるか。」 「うん、約束できるよ。」 男同士の約束を交わして 父に背負わせて貰うと、 よっぽど嬉しかったのか 尻尾を追いかける犬のように クルクルと駆けずり回った。
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