ランドセル(前半)

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その後、康介は約束通り 僕を乱暴に扱うことはなかった。 放課後遊びに出かける時でも 投げ捨てずにそっと下ろしてくれたし、 友達同士でランドセルを投げ合って 遊んでいた時も止めに入ってくれた。 たまに父の真似をして、 ブラッシングなんかもしてくれた。 そんな康介も今年で最終学年。 僕のお役目はもうすぐ終わる。 中学生になったら、 ランドセルは使われないからだ。 康介の成長を背中から見守ってきて、 すっかり親心のようなものが芽生えていた。 ランドセルを閉め忘れて かがんだ瞬間に中身が雪崩れた日、 突然のにわか雨に濡れながら 走って家まで帰った日、 工作した方眼紙の剣を振り回して 見えない敵と戦いながら登校した日。 どれも愛くるしくて、微笑ましくて、 まだまだ近くで見ていたい。 加えて、明日からは夏休み。 僕らの存在は学校を連想させる 象徴のようなものであり、 夏休みという逃避の期間には 目に触れない場所へと葬られる。 ただ、この夏は違った。
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