0人が本棚に入れています
本棚に追加
※
部屋へ入ると、少女はテーブルのコップに入ったままの水を口に含む。
少女を買うなど、初めてだった。
「い、いくらかな」
野暮な質問をしたと一寸目を逸らし、
「あ、いや。任務中で、手元のお金に限り……」
再度振り返った時、少女は拳銃をこちらに翳していた。
点と線がつながった。
街の住民達の憐れむ視線は、これを知っていたのだ。
所詮、阿呆の息子は阿呆だった。
それでもいいかと、肩の力を落とした。
少女は男を見据えたまま、銃口もそのままに、ボロ切れのようなワンピースを床へと落とした。
黄色い肌と、ぜい肉の一つもない、鍛え上げられた八ブロックの腹筋。夥しい数の銃痕、切り傷は、軍人である男の数倍、数十倍もあり、歴史が彫り込まれていた。
まだ成人も迎えないであろう少女の肉体は、軍で鍛えられた連中を目の当たりにしてきた男の想像を、遥かに超越していた。
「美しい」
冥土の土産には、十分すぎる芸術作品であった。
少女は拳銃を下ろしテーブルに置くと、全裸のままベッドに座った。
今なら、逃げられる?
今なら、勝てる?
無理だ。
全裸であっても、少女には微塵の隙も見つからない。むしろ余計に、彼との差を押し付けられる。
何をしても、今宵、生きては帰れないだろう。
「ボサっと立ってないで、こっち、来たら?」
言われるがまま、少女の隣に座った。
座るとすぐ、「財布」と言われ、差し出した。
中身を見た少女は、嘆息してテーブルにそれを投げ、仰向けになった。
「軍人って、馬鹿なの? よくそれだけの中身で、女を買えると思ったわね」
ぐうの音も無い。
「三日も付け回したのに、誰かに借りられなかったわけ?」
バレている。
何も言えない。
「不足分、お話して」
「……話?」
少女は横たわり、頬杖をついた。
「『死にたいのに、生きたい人』。なぜか、そんな連中に大モテするの、私」
真っすぐな瞳に、男は頷いた。
自身がそうした人間であり、また、そうした人間がなぜ彼女に惹かれたのか、はっきりと理解できる。
彼女なら、聞いてくれそうな気がした。
その上で、きっと、天上へと導くのだ。
『告解』の意味が、腹の底まで染み込んだ。
「何もないよ。何も無いんだ。僕には」
最初のコメントを投稿しよう!