キミをみつけて 【ベルネルテル外伝】

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   ※  部屋へ入ると、少女はテーブルのコップに入ったままの水を口に含む。  少女を買うなど、初めてだった。 「い、いくらかな」  野暮な質問をしたと一寸目を逸らし、 「あ、いや。任務中で、手元のお金に限り……」  再度振り返った時、少女は拳銃をこちらに(かざ)していた。  点と線がつながった。  街の住民達の憐れむ視線は、これを知っていたのだ。  所詮、阿呆の息子は阿呆だった。  それでもいいかと、肩の力を落とした。  少女は男を見据えたまま、銃口もそのままに、ボロ切れのようなワンピースを床へと落とした。  黄色い肌と、ぜい肉の一つもない、鍛え上げられた八ブロックの腹筋。(おびただ)しい数の銃痕、切り傷は、軍人である男の数倍、数十倍もあり、歴史が彫り込まれていた。  まだ成人も迎えないであろう少女の肉体は、軍で鍛えられた連中を目の当たりにしてきた(イーサン)の想像を、遥かに超越していた。 「美しい」  冥土の土産には、十分すぎる芸術作品であった。  少女は拳銃を下ろしテーブルに置くと、全裸のままベッドに座った。  今なら、逃げられる?  今なら、勝てる?  無理だ。  全裸であっても、少女には微塵の隙も見つからない。むしろ余計に、彼との差を押し付けられる。  何をしても、今宵、生きては帰れないだろう。 「ボサっと立ってないで、こっち、来たら?」  言われるがまま、少女の隣に座った。  座るとすぐ、「財布」と言われ、差し出した。  中身を見た少女は、嘆息してテーブルにそれを投げ、仰向けになった。 「軍人って、馬鹿なの? よくそれだけの中身で、女を買えると思ったわね」  ぐうの音も無い。 「三日も付け回したのに、誰かに借りられなかったわけ?」  バレている。  何も言えない。 「不足分、お話して」 「……話?」  少女は横たわり、頬杖をついた。 「『死にたいのに、生きたい人』。なぜか、そんな連中に大モテするの、私」  真っすぐな瞳に、男は頷いた。  自身がそうした人間であり、また、そうした人間がなぜ彼女に惹かれたのか、はっきりと理解できる。  彼女なら、聞いてくれそうな気がした。  その上で、きっと、天上へと導くのだ。    『告解(こっかい)』の意味が、腹の底まで染み込んだ。 「何もないよ。何も無いんだ。僕には」
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