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こうして、僕"たち"の夏休みが
始まった。
自分で言うのもおかしな話だが、
もしも僕が人間と会話ができたら、
どうしてそんなテーマにしたのか
聞いてみたい。
同級生に打ち明けたら、
いじめられてしまうのではないか。
僕の親心の心配をよそに、
康介は僕のことを毎日連れ出した。
当然のことだが、
夏休みにランドセルを背負っている
子どもなど1人も居らず、
どこに行っても悪目立ちしていた。
そんなことはお構いなしに
人混みをズンズンと進んで行く姿は、
勇者のように堂々とした
たくましさがあった。
なんと言っても1番の思い出は、
康介の祖父の家に遊びに行ったことだ。
僕の行動範囲は
学校と自宅の往復と寄り道程度。
県境を超えるような遠旅は
はじめてのことだった。
キャリーケースにランドセルを
背負った小学生は、
どこからどう見ても転校生だった。
そんな季節外れの転校生と
縁側で風鈴の音に耳を傾けながら
すいかをかじったり、
果てしない海に沈んでいく夕日を浴びながら
いたずら波と波打ち際で戯れあったり。
まるで兄弟やペットを連れ出すかのように
僕のことを背負って、
時には隣に座らせてくれた。
緑の生い茂る森に出かけたり、
川でカヌーを漕いだり、
冒険記という名にふさわしい体験もした。
どれもこれも普通のランドセルには
味わうことのできない貴重な日々で、
真夏の日差しはこんなにも強いのかと
驚きの連続でもあった。
康介の肌が小麦色に近づくにつれて、
僕と同化していった。
康介が駆け出すと身体の隙間を
ランドセルが上下に激しく動き、
康介の胸の鼓動の高鳴りが
僕にも伝わってくるようだった。
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