第3話

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 控え室で出番を待つ間、軽くチューニングして、スタンバイしていた。 アマネちゃんはいつもの44鍵のピアニカをベルトでたすき掛けにして、両手で抱えるようにして構えて、ジャバラホース付きのマウスピースで音に生命を吹き込む。 あ、ちなみに、小学校で使うのは、たいていが32鍵のものなんだけど、アマネちゃんの使っているのはそれよりも1オクターブ分多く、鍵盤が多い分、響きの華やかさは控えめなものの、独特の哀愁がある。 同じ鍵盤楽器なら、ピアノの方が鍵盤も多いし演奏できる曲の幅も増えるのは確かなんだけど、そこには決定的な違いがあるんだよね。 ピアノは鍵盤を押すと、ハンマーで弦を鳴らす打鍵楽器であるのに対して、ピアニカは息を吹き込む事で音を出す吹奏楽器だから、同じ鍵盤楽器でも、その機序が違う。 その点では、風を送って音を出すと言う意味では、ピアニカはパイプオルガンの仲間とも言えなくもない。 それに、吹奏楽器なのに鍵盤楽器なので、単体で和音を作れるところも大変魅力だ。 ピアニカと言う楽器は想像以上に奥が深い。 それに、ピアニカは音の強弱を奏者の息で調整するから、それがまたなんとも良い音色をだす。 アマネちゃんのそれは、アマネちゃんの見た目のかわいさとは裏腹に、とても情熱的で女の私が聴いても、どこか艶かしい音色だ。
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