03.一夜の思い出として割り切ることにした①

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03.一夜の思い出として割り切ることにした①

 湯気が立ち込める広い浴室は、性行為をする相手と一緒に入ってお風呂場エッチが出来るようにというホテル側の配慮か、棚にはカラフルな容器に入ったローションが並べてあった。  座面に用途不明な不思議な形の穴が空いている浴室用椅子に座った麻衣子は、シャワーのお湯を浴びながら頭を抱えていた。 (ああああ~!! どうしよう!!)  泣き落としに近い反則技を使われたといえ、斎藤課長とセックスすることを了承してしまったのは麻衣子なのだ。  ラブホテルに入ってしまったのに、今更「やっぱ止めましょう」だなんて言えない。  入口のタッチパネルを見て選んだ部屋は、意外にも薄ピンク色のフリル付き天蓋ベッドが置かれたロマンチックな部屋だった。  お姫様の寝室みたいな部屋へ入った途端、背後から抱き着いてきた斎藤課長を何とか押し退けて、押し問答の末シャワーを浴びる権利を勝ち取ったのは数分前のこと。  先にシャワーを浴びてきた斎藤課長は、髪を撫でつけていた整髪料が完全に落ちており、きっちりした印象が完全に変わっているうえに水色のバスローブから覗くのが湯上りの上気した肌という、色気が増した姿が眩しすぎて直視は出来なかった。 「髪を下ろしたら幼くなるなんて、もう反則でしょ」  昨日の夜、入浴時に剃った脹脛を撫でる。  ベッドインするのなら、この脹脛の伸びてきたムダ毛を剃ってしまいたいのだが、先に入った斎藤課長によって剃刀は撤去されてしまった。  浴室で毛の処置をしないという、ちょっと引く約束をさせられた時に茹だった頭の中が少し落ち着き、シャワーを浴びているうちに冷静に物事を考えられるようになってきた。  社内の独身女性憧れの斎藤課長とセックスしてしまったら、今後社内で彼と顔を合わせた際どう接していけばいいかを考える。それに、これ一回の関係で終わるのかもわからない。 (足が理想的とか、伸びてきた毛と肌のアンバランスさが堪らない、とか意味不明な事を言っていたけどそれは私の事が好きってわけじゃないよね? 今まで付き合った人達より貧相だって、私の裸を見たらガッカリしてこれっきりの関係になるはず。これから先、こんなにカッコいい人とのセックスは絶対に経験出来ないだろうし、一夜の思い出としてヤッちゃうのもいいかもしれない)  体の泡を洗い落とした麻衣子は、浴室の湯気でも曇らない加工をしてある鏡を見て数秒唸った後、腹を括った。  ホテルに一緒に入ってしまった上に、お風呂まで入って準備万端にしてしまったのだ。  ここまで来てしまったら、お互い雰囲気に流されたとして割り切るしかない。  脱衣所に用意されてあったバスタオルで体を拭き、ラブホテルのアメニティとして用意されてあったサイドを紐で止める面積の狭いショーツに若干引きつつもそれを履き、深呼吸をして部屋へ戻った。  ピンク色のバスローブを羽織った麻衣子が浴室を出ると、白色のソファーへ腰かけた斎藤課長はビールを飲んでいた。 「お帰り」  振り向いた斎藤課長に嬉しそうに微笑まれて、麻衣子の胸がドキリと跳ねる。 (キスが上手すぎるとか、髪の毛を下ろしたら若くなるとか、わんこな顔をして嬉しそうに笑うとか、本当に女心を擽ってくれる、出来過ぎた相手でしょう)  昔から自分の身持ちは固く、雰囲気には流されないと信じていたのに。 「お待たせしました」 「麻衣子さんも飲む?」 「っ、頂きます」  手渡されたビール缶に口をつけて、恥ずかしさを振り切るようにごくごくと一気に飲み干す。 「いい飲みっぷりだ。俺にも頂戴?」  空になったビール缶を麻衣子の手から奪い、テーブルへ置く。  ビール缶を持っていた手首を掴んだ斎藤課長は、掴んだ麻衣子の手を引き寄せてビールで濡れた唇へキスをしながら膝の上に座らせた。 「斎藤、課長」 「今は課長じゃない。隼人と呼んで」 「隼人、さん」  初めて名前を口にして恥ずかしさで頬が熱くなる。  石けんの甘い香りがする隼人の顔が近付いて来るのに合わせて、麻衣子は目蓋を閉じた。 「あっ」  唇の感触とビールの香りが離れていき、閉じた目蓋を開けば至近距離に整った彼の顔があった。 「触るよ」  麻衣子の答えを聞く前に、ガウンの合わせから中へ入った手が汗ばみ湿り気を帯びた肌に触れる。  大きな手の平が胸元を這う感触に、麻衣子は体を揺らしてしまった。  小振りの乳房を大きな手でやわやわと揉まれ、息を乱す麻衣子の肩からバスローブがずり落ちた。  乳房を揉む手はそのままで、もう片方の手が段々と下へと下がっていき、はだけたバスローブから剥き出しになった太股へ触れる。 「あっ待って、その、下はちゃんとお手入れしていなくて、」 「気になるなら、俺が手入れしてあげる」  太股から膝下を手の平で撫で下ろし、耳元で囁くように言われて麻衣子の背中に鳥肌が立つ。  頷きそうになるのを、それはおかしいと脳内で突っ込みを入れてギリギリのところで止めた。 「え、それは、ちょっと、あぁっ」  ショーツの横から入り込んだ右手の中指が、下生えを掻き分けて秘所の割れ目を撫でた。 「ふっ、濡れてる。麻衣子さんも、興奮してる?」  耳元で指摘されたのが恥ずかしくて、頭の中が沸騰していくのが分かった。
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