あとがきにかえて ― 21世紀の書庫より

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あとがきにかえて ― 21世紀の書庫より

 熱に揺らめく緑の地平ははるか後方にあり、眼前の果てしない砂の海は揺らぎさえしない。正義そのものたる太陽は、昼の世界から容赦なく闇と陰とを消し去った。その公明正大な恵みのもとにある灼熱の大地には、ほんの僅かな日陰も、緑さえも見当たらず、そこを渡ろうとするあらゆる生き物の命と心を、等しく削り取っていく。  黒い土地では宗教が変わり、言語さえも消え、かつての壮麗なる王国の痕跡も、全て一度は砂の中に消え去った。  けれど赤い土地の風景だけは、変わらずそこに広がっている。  沙漠の中にあるカルガ・オアシス。  その中心に近いヒビスの地に残る古い神殿の壁には、黒い土地の神殿では姿どころか名を刻むことも忌避された、荒々しい沙漠の神セトの姿が大きく色鮮やかに刻まれている。  対の存在である鷹神ホルスのように翼を広げ、世界に暗黒をもたらすという混沌の蛇を突く雄々しいその姿には、「黒い土地」の外に生きたオアシスの民の、どんな祈りが込められているのだろう。  言葉が変わり、信ずる神が変われども、――人工の灯が夜を照らし、鉄の心臓を持つ乗り物が世界を巡るようになろうとも、赤い沙漠に住む人々は、今も変らず、沙漠を畏怖する。  そして語る。  川べりの土地(エル・ワーディー)を遠く離れた山々のある沙漠の地(エル・ガバル)には、いにしえの時代より生きる強力な、名も知れぬ”ジン”や”アフリート”たちが棲むのだと。  今回の物語は、これでおしまいです。  最後までお付き合いいただきありがとうございました。  それでは皆さま、  またいつかの時代の、どこかの場所でお会いできることを願って。                    増水季 第四月 第二週 六日                    間戸(まあと) (かーらー)
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