“父”のいる島

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「響は、それでいいの!?本当は、俺達と同じ中学校に行きたくて、野球続けたかったんじゃないの!?」  明らかに、この島は危険極まりない宗教が蔓延している。村の有力者のアルファに、年端も行かぬ子供を捧げて子孫を産ませる道具にするなんて明らかにイカレているとしか思えない。好きでもない相手に抱かれて、一生苦しんで子供を産み続ける。こんな馬鹿げた話が、現実にあっていいものだろうか。 「俺に……俺に島の名前を教えて、俺が会いに来られるようにしたのは!どこかで、俺に助けて欲しかったからじゃないのかよ、響!」  何度でも。  何度でも何度でも何度でも――大気は未来永劫、この日のことを忘れることはできないのだろう。  この日の、響の虚無に満ちた瞳を。そして。 「…………そう、思うなら」  一生ものの、後悔を。 「どうして、もっと早く……会いに来なかった。こんな、取り返しのつかない身体になる前に……っ」  親戚を半ば人質に取られてしまって、家族は身動きが取れなくて。きっと命令に、逆らう術などなかったのだろう。  それでも、どこかで響は、この運命に逃れたいと願って。大気に、ほんの僅かばかりの期待をかけてしまっていたのだと――今になって悟ることになるのである。 「もう、堕ろせるような段階じゃないし。十二歳のガキが、外の世界で、一人でこんな腹抱えてどうやって生きろっていうんだ。家族見捨てて、故郷に見放されて、どうやって子供産んで育てるんだよ。……好きな相手の子供でもないのに」 「あ……」 「……まだ、お前の子供なら。楽しい未来もあったのかもしれないのにな」  す、っと。響は重い腹に手を添えて――立ち上がった。力が抜け、へたりこむ大気を見下ろして。 「ごめん。……どんなに手遅れでも。会いに来てくれただけで、嬉しかった」  そのまま彼は、大気を置いて部屋の出口へと歩いていってしまう。  もう、理解するしかなかった。彼を救える段階は、とうに過ぎてしまったことを。  この手はもう、彼の背中には届かないということを。 「じゃあな、大気。お前のこと、好きだったぜ」  ばたん、と。応接室のドアは音を立ててしまった。あとに残されたのは、残酷すぎる運命を前に、あまりにも無力だった一人の子供だけ。 ――好きだったって。それ、どういう意味でだよ。  友情と恋を、明確に区別するには。自分達はまだ、あまりにも幼い子供でありすぎた。 ――俺も、お前のこと、きっと好きだったんだ。好きだったのに。  おぞましい“父”のいる島で、地獄は呪いのようにめぐり続ける。  力のない子供達に、慟哭ばかりを齎して。
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