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光は千秋への熱烈な思いを如実に物語るような赫々たる夕陽が西へ沈み行くのを眺めやりながら行く秋の黄昏の心細さが身に染みた。更にはセンチメンタルになり、千秋が自分から逃げて行くような気がして憂鬱になり頭が重くなって来て、「僕は重い、僕は思い」と呪文の様に繰り返す内、眠気を催してうとうとし出した。
すると背後から、「ひ~か~るくん!」と夢とも現実ともつかない女の子の呼ぶ声がした。
光は忽然と別天地に降り立った人の様に、おやっと思って振り向いたが、誰もいない。念の為、四方八方見廻しても自分の近辺には誰もいない。気の所為かと思って再び夕陽に向かうと亦、背後から、「ひ~か~るくん!」と今度は真実味を帯びて女の子の呼ぶ声がする。こりゃあ、間違いないと思って振り向いても誰もいない。?と顔に書いた様に光はきょとんとしてしまうと、生け垣の手前の桜の幹の後ろから、ひょいと千秋の顔が現れた。その瞬間、光はまるで最大電圧が掛かって二千ボルトの電流が流れた電気椅子に座る死刑囚みたいに背筋がぴんと伸びて顔がこちこちに硬直して千秋の顔に瞠若たらしめられた。
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