恋は夕焼け空と星空の下で

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 やがて夕陽で赤く染まった校庭に誰もいなくなると、二人の間に神聖な静寂(しじま)が訪れた。二人の頭上には二人の背後から指呼の間に偃蹇(えんけん)として聳え立つ桜の無数に伸びる枝に生い茂る百千(ももち)の紅葉が静かな秋風に戦ぎながら幾重にも何重にも重なり合い、二人の足元には落ち葉となった紅葉が新たに仲間に加わろうと舞い落ちる紅葉と共に三々五々に舞い上がり、それら全ての紅葉が夕陽で紅蓮の炎の様に真っ赤に染まりながら粛として音を立てないでいる。  二人はまるで音も熱も滅した太陽の中に居る様に感じ、神秘的で幻想的で無限的な雰囲気に包まれ、酔いしれる最中、二人の背後に出来た影がブランコの枠の影に仲睦まじく納まっている。その上を吹く秋風が和らいで落ち葉が蠢き出し、頭の影の輪郭が日暈の様に揺らめいだ時、その影を横顔のシルエットに変えた千秋は、神聖な静寂を縫って囁いた。 「あのねえ、ひかる君。」 「うん。」と光が息を呑んで向き直ると、千秋は二人の声しか響かない不思議な空間の中で輪を掛けて恥ずかしくなって俯いてしまい、照れ笑いした儘、首を竦めたり、肩を窄めたりしてもじもじする。光が固唾を呑んで見守っていると、「あのねえ、ひかる君。」と千秋は繰り返して再び顔を上げ、光と目が合った、その瞬間、乙女の心はすっかりロマンチックになり、逡巡をかなぐり捨てて囁いた。 「私、ひかる君が好きよ。」  光は夕映えした千秋を太陽の様に思い、プロミネンスの如く燃え上がる恋心を募らせながら囁いた。 「僕もちいちゃんが好きだ。」
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