檻の中の仮面

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「お兄さん!起きて!」 「うーん、後ちょっとぉ…」 「今日は7時半に会社でしょ!」 布団を剥ぎ取り、賢太郎を起こす。 「兄ちゃん、起きなよ。さすがにだらしないよ。妹の前でさ」 「うーん……」 そう唸り、ムクリと起き上がる。 「沙耶香、おはよお」 賢太郎が、沙耶香姉ちゃんの写真に向かって語りかける。 私と賢治が大学生になった今は、賢治と賢太郎と私で、ホームシェアというものをしている。賢太郎と沙耶香姉ちゃんは、あれ以来仲良く暮らしている。あの後、家出したあとにアパートへ戻ってきたが、結局母は家にいなかった。高校三年生まであの家で過ごして、大学生になると無断で飛び出した。大学は、奨学金で何とか通っている。一応私は、賢太郎たちの義理の妹という形になった。 あのクソな親から離れるために、名前を捨てることも考えたが、凛心という名前だけは捨てられなかった。結局、私は好きだったんだ。この名前が。 「さーて、私は梅酒でも飲むかなあー!」 「え、ちょっと、凛心…朝からダメだよ」 「今日は大学もないからいいのー!出かける予定もないしぃ」 「えー…」 別にこの人たちは、強くは言わない。人それぞれの意見をよく尊重しているような気がする。賢治と賢太郎は、賢太郎がキッパリと女遊びを辞めたことから、次第に打ち解けていった。 冷蔵庫に入れていた梅酒の缶を手に取る。プシュリと空けて、コップに注ぐ。カラメル色に透き通り、光る。アルコールの匂いが、部屋の中を優しく包み込む。私はそれを手に取り、ごくんと一飲み。 苦い。苦いけど、その奥にある美味さを味わう。 大人になるとはこういうことだった。多分、大人とは、奥にあるものがわかる人のことを言うのだ。曖昧なことでも、それでも包み込んでくれる。そんな人が、大人になれるのだ。 もう私は少女でもなんでもない。だからこそ、大人に近づいていける。 過去にはもう囚われない。林檎の木は、今綺麗に花を咲かせている。もう、潰さない。腐らせない。 もう、 檻の中で仮面はつけない。 どんな形でも、私は生きている。梅酒を口の中で転がして、そう誓った。幸せな時間だった。              檻の中の仮面 fin
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