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檻の中の仮面
コツコツ…1人個室で鳴り響くスマホのフリック。単調なリズムで刻まれている。
ピロンと着信音がなり、そちらを見ると誰からかのメッセージが送られている。
「……けんた?」
ここから、私の人生は狂い出す。
私の家族は優しかった。きっと、どこにでもいるような一般な家庭で生まれたであろう。赤いランドセルを背負い、何人かの女の子とテクテク帰って行く凛心は、ぺちゃくちゃと喋っていた。
「りんごちゃんのお母さんって優しいよねー!」
「え、そうかな、」
「うん!すごい優しかったよ!この前なんてお菓子くれてね……」
私の名前は凛心。みんなからは、りんこがりんごみたいに思えたようで、愛称を持ってりんごちゃんと呼ばれている。私はそのあだ名が好きだった。実際、私の家の庭にはリンゴの木が植えてあり、母が大好きだった。もちろん、私も好きだ。
友達からよく私の母の話を聞く。私はそれを聞いて、何となく謙遜するが、とても嬉しかった。自身の母をこんなにも褒めてくれたら、子供ながらに鼻が高いと感じていた。
何の変哲もない曲がり角のところで、赤いランドセルの集団はピタリと止まり、じゃあーね〜と軽い返事が聞こえる。私は金曜日ということもあり、疲れ果てていたため足早にその場を去った。
いつまでも、この時間が続くと思っていた。この、母を自慢出来る時間が。
そう、私は母が好きだった。母が。
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