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2話 夢のなかで (*)
秋良は夕飯のハンバーグを食べながら、スマホを見て『キスマーク つける理由』と検索して、その検索結果にうんうんと唸っていた。”独占欲”…って、俺ら四六時中一緒にいると思うんだけど。
さっき交わした愁一との会話を思い出してみる。
「そのキスマーク、つけたの俺だって言ったらどうする?」
「…………えっ?はあ?…ていうか本当にキスマークだったのかよ!…もーこんないたずらすんなよなあ。ちょっと寿命縮んだ気がする」
首の痕の正体と犯人がわかって、秋良は思わず安堵する。なんで急にキスマーク!?ってところは今はおいておくことにした。
「ふっ…慌てすぎだろ。昨日寝付けなかったのに、隣でグースカ寝てるから意地悪でつけてやった。友達に見られたのは悪かったよ」
「ちょっ…お前なあーー。すげえ恥ずかしかったんだけど」
ていうか、キスマークの付け方知ってるって何?実はこいつ、俺の知らないところで彼女とかめちゃくちゃいたりするんじゃ…色んな混乱が頭を駆け巡り、うろんな目で愁一を見る。愁一はいつも通りの顔に戻っていて、とりあえずはイタズラだったんだなと秋良は思うことにした。
実は彼女がいて、独占欲でキスマークをつけてる愁一の姿を想像してなんだかもやっと心の中が荒れた。やめやめ、なんでこんなこと知ってるのかは、また別のタイミングで聞いてやろう。そんなことを思って気もそぞろになっていると、箸で口に運んだはずのハンバーグがぽろっとこぼれてしまった。
「ちょっと秋良!だらしない食べ方して…スマホいじるか食べるかどっちかにしなさい」
「わわっごめん。ちゃんと食うよ」
「もう。あっそうだ、食べ終わったらこれ愁一くんのとこ持ってってくれる?」
母親はハンバーグと付け合わせのサラダがのせられた皿を指さす。
愁一の家は、両親が海外で仕事をしていて、年に1、2度帰って来るかこないかのちょっと複雑な家だった。愁一の両親と秋良の両親は昔からの付き合いで仲が良く、愁一はほぼほぼ佐伯家の子みたいな感じで秋良の親が面倒を見てきたのだが、最近は申し訳ないから、とどんなに誘っても一緒に食事をするのを断るようになってしまった。愁一のイケメン顔を芸能人みたい!と会うたび目がハートになっている母親は残念そうだ。
時々夕飯の余りを差し入れをすると、すまなそうな顔になるが綺麗に食べて皿を返してくれる。実はものすごく嬉しいのだろうなと思うと、母親は愁一に差し入れる時の料理に気合が入ってしまうようだった。
「わかった。それ持ってってそのまま向こうで寝るから」
「はいはい、あんたが引っ付いてて愁一くんにちゃんと彼女ができるか心配だわ。あんなにイケメンなのに女の子と一緒にいるの見たことないもの」
「ちょっ…俺がひっついてんじゃなくて、あいつが俺にひっついてんの!」
「はいはい、愁一くんによろしくね~」
食事を終えた秋良は母親の愁一びいきにウンザリしながらもハンバーグを持って、愁一の家に向かった。合い鍵を使って部屋に入ると机に向かって参考書を開いている愁一の姿があった。
こいつ、顔がいいだけじゃなくて頭もいいのはこうやってちゃんと勉強真面目にやってるところなんだよなあ。部屋にいても漫画ばっかり読んでしまってよく母親に怒られる秋良は、口には出さないけど愁一のそういうところを尊敬していた。もちろん成績は平均を下回ることが多かった。
「愁一、邪魔して悪い。これ母さんが食べてって」
「……祥子さん、今日も差し入れしてくれたのか。いつも悪いな。明日お礼を言いに行く」
祥子さんとは、俺の母親の名前だ。”おばさん”じゃなく名前呼びするところが秋良の母のツボを押さえまくってる要因でもあるのだ。
「ここ置いとくな。俺風呂入ってくるー」
「わかった」
毎日ここで寝泊まりしているので、大体風呂や歯みがきなどは愁一の家でするようになった。秋良は第二の自分の家のように勝手気ままに動き回る。
風呂から出て部屋着で愁一のベッドに倒れこむ。しばらくスマホをいじってゲームをしたり、ネット記事を見たりだらだら過ごしていたが、愁一はまだ机に向かってる様子だったので「先に寝るな」と一声かけてゆっくり目を閉じた。
なんで2人で眠ることになったのか、まどろむ中で秋良はぼんやり思い出していた。
10年前、小学2年か3年だったか、愁一の親の海外転勤が決まり、ほとんどを海外で過ごすことになった。愁一を連れて行っても仕事の忙しさで構ってあげられないことから、見しらぬ土地よりも日本に残したほうがいいだろうと秋良の両親に世話をお願いし、愁一は秋良と一緒に住むことになった。
当然、幼い愁一は寂しかったのだろう。最初は秋良のベッドの横に布団をひいて寝ていたのだが、なかなか眠れずに一人声を殺して泣いていた。鈍感すぎた秋良は3日目の夜にしてようやくやつれていた愁一の原因に気づき、自分のベッドに寝かせて抱きしめて眠った。「こうすれば寂しくないだろ?」とぎゅっとした秋良に安心したかのように眠り、そこから一緒のベッドで眠るのが日課になった。
中学に入ってからは、秋良の家族に遠慮してか食事以外の時、愁一は自分の家に帰るようになった。その時少し一緒に眠るのをやめたことがあったが、また愁一は眠れなくなっていた。見るに堪えかねて秋良は今度は愁一の家で毎晩一緒に眠るようになった。
離れていた間 ― 1週間くらいだったと思うが ― 秋良もいつも隣にいた愁一がいなくてなかなか寝付けなかった。なんだか恥ずかしかったのでこの事は愁一には言ってない。
ぼんやりした意識の中そんな昔話を思い起こして眠っていると、電気を消してようやく愁一が布団に入ってきた。愁一の体にぎゅうと抱き着く。これでようやく安心して眠れる。そう思い、眠気に身をゆだねる。
「っ……人の気もしらないで」
闇の中に意識が溶ける直前、愁一の声が聞こえた気がした。
はあっはあっ…
呼吸が荒い、ちゅっちゅっ…といやらしく感じる水音が耳音で響いている。
夢の中で秋良の服は乱され、シャツがめくれて胸が露に、パンツもずりさげられて、性器は痛いくらい勃起していた。
うわ…俺めちゃくちゃエロい夢見てる。
健全な男なのでクラスのかわいい女子とか、憧れの女優とか、やらしい夢は見たことがあったが今回のは少し違った。自分がエロいことするのではなく、されている。
背後から回る片方の手が秋良の薄い胸を揉む。乳輪をなぞられ、肌が泡立つ感覚がある。男のそんなとこ触ったって…と思うがむずむずする感じが止まない。じわじわと胸の周りをなぞる指が、ようやく乳首に到達してきゅっとつまんだ。その瞬間ビクンと大きく体が跳ねてしまう。
「んあっ…」
やばい、俺、なんつー声だしてるんだ。こんな欲求なかったはずなのに…夢なのに、妙にリアルな感覚だ。
はあはあ、と息があがる。乳首はコリコリとつままれたままだ。下半身に熱が溜まる。早く下を触ってほしい。そう思っているともう片方の手が完全に勃ちあがった性器を掴んでしごきあげてきた。
「んっやっ…あっ…」
乳首と性器を同時に擦られて、自然と声が漏れてしまう。
夢の中で頭に靄がかかっている状態だからか、羞恥より快感が勝ってしまいあえぐ声が止まらない。
「あっ…ダメッ…だから…そんなに…いじっちゃ…!んっ…もう…」
性器をしごく手が早くなる。達しそうになり、出るから、だめだ、いやだ、を繰り返すが俺の体を弄る両手は止まってくれない。
「やっやっあっ…んんッ―――」
ビクビクッと大きく体が跳ねて、秋良は達した。びゅうびゅう精液がでて、弛緩して力が入らない。体の背後で俺を弄っている相手はかなり興奮した様子で、秋良の体を横に向かせて激しく唇を重ねてきた。ゆるく開いた口のなかに舌が入り込み、口の中をやらしく動き回る。唾液をすすられるような激しいキスに戸惑ってしまう。
「んんっくるひっ…やっん…」
苦しくて、でも快感を引き出されるようなキスに息が出来なくなっているとようやく唇が離れた。自分の唇が唾液でべたべたになっているのを感じる。
うっすらと目を開けると、そこにあったのはエッチなお姉さんの顔ではなく、愁一の顔だった。情欲に濡れた愁一の顔、見たこともないような雄の顔をしている。
「う…そ…」
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