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3話 友達なのに、おかしい
起立、礼――
いつものように授業開始の号令がかかる。
着席して、先生の眠くなるようなトーンで授業が始まった。秋良は窓際の席で机に突っ伏している。
先生の声が耳に入らないくらい、昨晩の”夢”に囚われていた。
愁一に触られまくって、イカされた夢――。
いつも夢なんて覚えていないことのほうが多いのにくっきりはっきり、触れられた感触までリアルに残っている。
夢から覚めた後の秋良の狼狽えぶりは、初めて夢精してしまった朝のように恥ずかしくてたまらないものだった。隣で寝息をたてる愁一を見て、とてもじゃないけど一緒の空間にいられず、今日は初めて愁一を起こすことなく一人で登校してきてしまった。愁一には適当な理由をLINEしておいた。
なんで俺、あんな夢…!思い出すたび愁一に申し訳なくて、恥ずかしくて、秋良は叫びだしたくなる。
愁一がキスマークなんかつけるからだ。だからこんな…!
キスマークのせいだと思いたい。だって親友でこんな夢見るとか、気持ち悪すぎだろ、俺…。
秋良は夢のことを思い出すたびにジタバタと暴れたい気持ちになった。
昼になると、いつものように教室に愁一が秋良を迎えにきた。
「秋良、屋上行く?」
「あ、ああ…」
屋上でもくもくとパンを齧る。
愁一とはとっくに会話がなくても気まずくなるような仲ではないが、何を喋ってもボロが出そうで、秋良は気もそぞろに屋上から見える街の景色に集中していた。
「秋良、ここ…ついてる」
「へ?」
口元についていたタマゴサンドの具を指で拭われた。愁一はそのままそれを舐める。
いつもされていることではあったが、愁一の指先と口元が妙にやらしく見えてしまい真っ赤なってしまった。
「今日もぼーっとしてる。気にしてるの?」
「え? な、なにが!?」
まさか愁一でエロい夢を見てしまったことがバレた? エロい寝言がすごかったとか? 一瞬色んな予感が頭の中を駆け巡り、秋良は挙動不審になってしまう。
「キスマーク。しばらく消えないから…」
「あ、ああーー」
そっちか…!秋良は心の中で盛大に胸を撫でおろした。
「そ、そうだよ。お前が目立つとこつけるから…!」
「少し薄くなってきたけど…」
愁一が襟元に手を入れ、その痕を撫でた。
ざわっとした感覚にまたびくっと体が跳ねる。
「ちょっ…やめろって…」
「無くなっちゃうの寂しいな。また付けたくなってくる」
「ばっばか…!」
「秋良が俺のものだ…って感じがする」
嬉しそう微笑む愁一に間近で見つめられてざわざわする感覚が止まらない。
俺、ずっと愁一といすぎておかしくなったのかも。
モテないせいもあるけど、彼女をそこまで作りたいと思ったことなかったし
愁一といるとラクで楽しいし…。だから欲求不満になってたのに気づかなくて、俺はおかしくなってる。きっと。このままじゃダメなんだ…。
秋良は触れている愁一の手を、強めに払いのけた。
「そういうのやめろって!」
ピリッとした空気が流れる。愁一は驚いた顔で秋良を見た。
「…なんで?」
「俺にばっかり構うなよ。もう高3にもなるのに登下校も、昼も、家でも一緒で…」
「俺は秋良だけがいればいい」
「お、俺はよくない! もう大人になるんだしさ、お互いもっと友達増やして、一緒に寝るのもちょっとずつやめていかないと…」
秋良が必死にいい訳を並び立てていると、愁一に腕を掴まれた。
「秋良、俺と一緒にいるのが嫌になったの?」
「そういう訳じゃない。でも、ずっと一緒はよくないと思っただけ。お、俺だって彼女とか欲しいし…」
掴まれた腕に力が入る。痛くて顔を歪めるが、愁一の掴む力は弱まらない。
「本気で俺と離れたいの?」
「っ………」
目を合わせられないまま、ウンと頷く。するとやっと掴まれた部分が緩んだ。
「……わかった。秋良の言うとおりにする」
「えっ? い、いいのか?」
「うん。今日までは一緒に寝てもいいよね?」
「ああ…それはもちろん」
自分から言い出したのくせに、秋良はあっさりと受け入れる愁一にひどくショックを受けた。
そんな簡単に受け入れてもらえるほど、愁一にとって俺は大事な存在じゃなかったのかもしれない…なんて女々しい気持ちが湧き出て、自分でもずるいと思ってしまう。
その後もいつも通り一緒に帰ったが、気まずさからかお互い一言も話さなかった。
息苦しいまま、夕飯を食べ終えた後に愁一の部屋にいき、おやすみ、とだけ言葉を交わして眠りについた。
布団に入ってから、愁一に背を向けた状態で横になっているが、秋良は眠れていなかった。
昨晩の夢のこと、昼に離れたいと思ってもいないこと言ってしまって後悔してること。
眠れない。今晩で愁一と眠るのは最後なのに、こんな喧嘩したままでいいのか?と、秋良は全部打ち明けて謝ってしまいたい衝動にかられていた。
「秋良、寝た?」
背後から愁一の声がした。
起きている。けど答えられない。昼のこと謝ってまた元通りになったら、また変な夢をみるかもしれない。これでいいんだ…と言い聞かせつつ無言でいると、後ろから愁一の手が秋良の腹のあたりに回ってきた。愁一に抱きしめられている状態になる。いつも寝る時に抱き枕にされているので、無言のまま秋良はじっとしていた。が、次の愁一の行動に、思わず飛び跳ねそうになってしまった。
ちゅ…と首の後ろ側のキスマークが残る場所に唇を押しあてられた。そのまま舌で痕をなぞられている。またあのざわざわした感覚がせりあがって来る。
音を立てて舐められたあと、きつく吸われた。嘘…またキスマーク付けようとしてる?
昼間の仕返しかよ…!と思っていると前にある愁一の手に、秋良のTシャツは胸の上までまくられた。
秋良の胸が空気にさらされ、ひんやりとする。
「秋良…」
後ろから耳元で熱っぽく名前を呼ばれた。
(なんだこれ?なんだこれ?)
秋良が狼狽していると、愁一の少し硬くてかさついた指が腹から上へと撫で上げ、そのまま胸にたどり着いた。
つつ…と指が乳輪の周りをゆったりなぞる。びくっ…と反応してしまう。
(どうしよう、愁一、冗談…だよな?)
寝たふりをしてしまったせいか、どうしたらいいかわからない。ツッコミを入れるべきなのか…秋良がそう思っていると片方の手が胸から下に降りてきてズボンの中に入り込んだ。
(えっ嘘…そこはっ…!)
ますます、冗談はやめろよ、と言える雰囲気じゃなくなってしまった。
秋良は混乱したまま、ぎゅっと目を瞑った――。
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