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5話 あいつの声を思い出して一人で…(*)
――目覚めると、下着もシャツもズボンもきれいに着せられていた。
精液でベトベトになっていたはずの体もきれいで、シーツも替えられている。
まるで昨晩起こった出来事が夢かのように思えたが、体のだるさと尻の痛みであれが現実だったことをまざまざと思い知らされた。
愁一はもういなかった。秋良は温もりがなくなったシーツをぎゅっと握りしめる。
***
――昼休み。
教室で無心に焼きそばパンにかぶりつく秋良に、犬童が前の席からチョココロネを手に持って話しかけてくる。犬童は下の方からパンをちぎり、上のチョコをたっぷりすくって口に入れながら
「なあ、お前ら喧嘩したの? 最近全然一緒にいなくない?行き帰りも別だしさー」
「………別に」
「えー? 今までは雨宮と屋上で飯食ってたじゃーん」
ニヤニヤからかうように聞いてくる犬童を無視して、秋良は最後のひと口を頬張った。そのまま牛乳で流し込む。
あの夜から1週間以上経っていた。
始めの1日は地獄だった。腰の痛みで変な歩き方になってしまい、盛大に遅刻した。思い出すだけで怒りが湧きこってくる。
愁一のせいでこんなことになってるのに、秋良の傍からいなくなっていたのが何より腹立たしかった。謝るのも、いい訳もしないで――
秋良は飲み終わった牛乳パックを荒く握り潰す。
愁一はあれ以来、秋良に近づかなくなった。
秋良も愁一が謝りに来ないのに自分が折れるなんてできなくて、自分の家で眠るようになり、登下校も別々になった。クラスも違うので最近では姿を見ることもなくなっていた。
「雨宮変わったよな。前は秋良にべったりだったのに、今朝クラスの女子たちに囲まれてるの見たよ。モッテモテ」
「ふーん」
「何であんな急に変わっちゃったの? なんかあるんでしょ?」
「いいんだよ、あんなやつ…!」
「おっ、やっぱなんかあるんじゃーん」
愁一は俺のことを避けまくってるどころか、あれだけ関わることを面倒くさがってた愁一ファンの女子たちに愛想を振りまいていた。
(あいつ、俺だけがいればいいとか言ってたくせに!)
自分が言ったのだ。「俺ばかり構うな」と。「ずっと一緒はよくない」と。
愁一は秋良の望む通りになった。
でも今までのこととか、あの夜のこととか、全部なかったことにするのは違うだろう?全部を思い返すとなんだか泣きそうになってしまい、秋良は机に突っ伏した。
あんな恥ずかしいことをされて、ひどいことされて、なんで嫌いになれないんだ。なんで仲直りできないのを悲しがってるんだよ…俺。
何度も何度も、あの夜が秋良の脳内にリピートする。
あれはセックスだった。どう考えても友達同士がやることじゃない。
「秋良…」と熱っぽく呼ぶ愁一の甘い声。
そして愁一に突っ込まれて、めちゃくちゃに突かれてあられもない声をあげつづけた自分の痴態…
思い返して、うわああああ!と机に突っ伏したまま地団駄を踏んだ。
「なんだよ急に暴れて。雨宮が女子にモテてんのがそんなに気になるわけ?」
「気にしてなんかない!」
顔をあげて真っ赤になって否定すると、犬童が一層いやらしく笑った。
「恋煩いみてーだな」
「は、ハア? 何言って…」
「だって秋良、恋しちゃった乙女みたいな反応なんだもん。焼きもち妬いてるみたい」
「っ…!」
「それに、最近ずっとひでー顔してるよ。次の授業保健室で寝てきたら?」
「うっさい!」
犬童にこれ以上からかわれたくなくて、秋良は荒っぽく席を立ちトイレに逃げた。
誰もいないトイレの洗面台の鏡に、自分の姿が映る。
ふと襟首を見ると、あの時のキスマークはほとんど消えかかっていて、もううっすらとしか残っていなかった。
これが消えたらもう二度と愁一との関係が戻らないような気がして、秋良の胸は苦しくなった。
***
家に帰った秋良は、ベッドに寝転がりスマホゲームをするがすぐに飽きてシーツに突っ伏す。何をしても面白くないし、これといった趣味もない。毎日食事の時間以外は、ほとんど愁一と一緒に居た。ネットで面白いものをみたら愁一に共有したり、ゲームするときも隣にずっと愁一が傍にいて…
「もお~~~なんなんだよ…!!」
気づけばまた、愁一のことを考えてしまっていた。
だいたい、俺があいつとのエロい夢見たのだって…寝てる俺にああいうことしてたからってことだよな?
いつからなんだろう。ここ最近目が覚めると疲れてることは多かったけど…寝てる間にされていたことを想像してしまい恥ずかしくて真っ赤になる。
あいつ、さいっあく。全部愁一のせいじゃないか…!
秋良は枕をぼすぼすと叩き、どうしようもない怒りをぶつける。
枕に顔をうずめながら今日の帰りの出来事を思い出していた。
女子たちに囲まれながら下校する愁一を見た。あの子たちの中の誰かと、付き合うんだろうか。
美人でかわいい子たちばかりだったけど、愁一なら選び放題だろう。
付き合って、家に呼んで、俺にしたみたいに、あのベッドで…
『秋良…かわいい』
――ドクン、と胸がざわめく。
耳元で囁いた愁一の声を思い出してしまった。とたんに体が熱くなる。
あの夜から自慰もしていなかった。秋良はおもむろに自分のパンツの中から性器を取り出す。
ゆるゆると上下するとすぐに膨れ上がった。ズボンと下着をずり下げて、自慰に集中する。
「ふっん…」
あの夜、愁一に口に含まれて、愁一の舌が裏筋をなぞって…秋良は思い出しながら指を動かす。
先端の穴から先走りが漏れ出した。
「はあっは…あっ…!」
手を動かすだけじゃ足りない気がして、愁一に触られたのと同じように乳首をつまんでみる。
こんなところ、気持ちよくなったらやばいのに、ピリッと電気が走るような感覚がある。そのまま愁一にされたようにコリコリと刺激を与えてみる。
性器も同時に触るとひどく気持ちいい。
「やっ愁一…愁一…!」
目を閉じると愁一が秋良のものを弄っているような感覚に陥る。
友達同士でこんなことダメなのに…。背徳感が快感を煽る。
手の動きが激しくなり、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が部屋に響いた。
「はぁっはぁっ……んんんっ……!」
びくびくっと体が震え、達してしまった。
「はぁっ…はー……」
秋良は荒い呼吸を繰り返したあと、手に吐き出された精液を見つめる。愁一が秋良の出したものを美味しそうに舐めていたことを思い出し、興味本位で口に含んでみる。うえっ、とまずすぎて顔をしかめた。
自嘲気味に笑い、「最低だ」とぽつりと呟いた。
脱力して目を瞑るが、今夜も眠れないのはわかっていた。
依存してたのは自分の方だったのかもしれない。
そんなのもうとっくにわかっていたのに――…。
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