夜が明けて

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 美優は今一度、小さく頷いて、  「……学校遅刻して、いきます」  と念押しすると、森永さんは少し驚いた様子で小さく声を上げる。 「……学校、遅刻できるんですか?」 「なんとか……」  本当は一つの授業も逃したくはないけど、朝一番で病院に行けばなんとかなるし、授業のノートは夢子さんか瞳さんに見せてもらおう。 「なんとかなります」  言い切ると、森永さんはふわりと表情を和らげた。 「そうしてくれると、俺も安心します」  そして美優の足にバンドを巻きつけ終えると、救急セットが入ったケースを元の棚に戻してまたベッドに戻ってくる。 「朝ごはんを用意しました。一緒に食べましょう」  そう言って差し出させる手を美優は取って、ゆっくり立ち上がった。  キッチンスペースのテーブルの上には、ランチョンマットの上に乗る料理たち。トーストとウインナー。そして、グリーンサラダが並べられている。  向かいの席にも同じものが揃い、間には真ん中にはジャムやマーガリン、シュガーやケチャップ、ドレッシングが添えられている。  森永さんは美優を椅子に座らせると、フライパンで作っていたスクランブルエッグを均等にそれぞれのお皿に移し、空いたフライパンをコンロの上に置いた。そして今度はサイフォン式のコーヒーメーカーで作ったコーヒーをマグカップに注ぎ入れる。 「俺、朝はコーヒーなんですけど、藍沢さんは……紅茶派でしたっけ?」 「コーヒーも飲めないことは、ないです」  そう言ってみるけど、森永さんに紅茶まで入れてもらう手間はかけてもらいたくない。それを森永さんは察したのだろう。 「牛乳入れて、カフェオレにしますか?」  と、尋ねてくれた。 「あ、はい、お願いします……。ありがとうございます」 「どういたしまして」  美優のお礼にさらりと答えた森永さんは、テーブルの上にグラスを二つ置くと製氷庫から氷を掬い上げてグラスに落とす。するとカランカランと小気味いい音がグラスの中で響いた。さらにコーヒーメイカーで濃く入れた熱々のコーヒーを氷の上にゆっくりと垂らして二等分に分ける。いや、自分の方が少し多め。  コーヒーを全て注ぎ終えると、コーヒーが入っていたガラスポットはシンクの中へ。代わりに冷蔵庫から取り出したのは、もう封が開いている牛乳パック。  開いた注ぎ口からグラスに注がれる牛乳は、コーヒーの黒と混ざり合い、淡い茶色を作り出す。  森永さんは冷蔵庫の牛乳パックをしまうと、美優の前に置いたのはガムシロップ。 「もし苦かったら使ってください」  そう言いながら向かいの椅子に腰を下ろし、 「では、食べましょうか」  と、美優に食事を促した。 「ありがとうございます。いただきます」 「はい、いただきます」  合わせた手を離しつつ手元にあるフォークに手を伸ばし、チラと真正面を伺えば。早速とばかりに森永さんがサラダをフォークでザクザクさして食べ始めていた。  その視線はもちろん彼に刺さっていて、森永さんはサラダを咀嚼しながら美優と目を合わせた。そしてごくんとそれを飲み込むと、どうしましたかと言わんばかりに小首を傾げた。 「……いや、あの。……なんか……」  言葉を紡がなくちゃ居られなくて、何か声に出すけど。 「……な、なんでもないです」  と俯き、テーブルの真ん中に置かれていたドレッシングを手に取った。  ランチョンマットを敷いての食事だったり朝食をしっかり作ったりと、すごく丁寧な生活をするんだなぁと思って見ただけなのに、こんなにドキドキしているのはなんでなんだろう。  それに、このこととは別に、ちゃんと伝えなくちゃいけないことがあるはずだ。  美優はパッと顔を上げた。
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