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支倉音響監督が美優をAランクに記入していた。
A+がついた最上さんと十時さんよりは下に書かれていたけど、実力はこのクラスの半分より上だと評価してくれたのだ。
じゃぁ、酒井講師は。と目線をずらした一番下。
さよりや最上さんや十時さん、早坂さんと共に、A−として藍沢美優と記載されていた。
本科土曜十四時クラスの落ちこぼれだったあたしが、担当講師に認められ始め、外部講師からもちゃんと評価してもらえた。
そのことが嬉してにやけてしまいそうで、美優は唇を噛み締める。
早く森永さんに伝えたい。
酒井講師にも、頑張りを認めてもらえるようになりましたって。
そんな美優の逸る気持ちを、支倉音響監督の声が遮った。
「先ほども言った通り、あなた方が飛び込もうとしている世界は、常にランキングとの戦いです。『ランキングなんて関係ない。わたしはわたし』と言う意識でいても、頭の片隅に自分はどの立ち位置にいるんだろうと自覚しておいていただけると幸いです」
支倉音響監督はレッスン生を見回して告げると、レッスン生に立つように促した。
レッスン生が立ち上がると、支倉音響監督は今一度全員と目を合わせて続ける。
「では、今度はスタジオでお会いしましょう。ありがとうございました」
その挨拶にレッスン生も、ありがとうございましたと頭を下げた。
支倉音響監督は酒井講師にも頭を下げると、手荷物をまとめてレッスン室を出て行った。
酒井講師もその後に続き一旦はレッスン室から出たが、磨りガラスの扉を開けると、目的の人物に声をかける。
「さより」
酒井講師がさよりを名前呼びしはじめたのは、一ヶ月ほど前。最近知ったことだが、酒井講師はお気に入りの女子レッスン生を名前で呼ぶようだ。
そのお気に入り入りを果たしたさよりが振り返り「はい」と答えると、酒井講師は表情をそのままに告げる。
「着替えが終わったら荷物持って五階に来るように」
「? はい、わかりました」
さよりが返事をすると、酒井講師はそのままロビーへと出ていってしまう。
「……何かしら?」
若干訝しげに小首を傾げたさよりがロッカー裏へと歩き出したので、美優もそれに並んだ。
「……もしかして、支倉音響監督直々にオファーだったりして!」
「……いや流石にそんなに人生甘くないと思うわよ、美優」
渾身の冗談を夢見すぎだと嗜められながらロッカー裏へと周り、各々早々に着替えを済ませる。
ロッカー裏奥では早坂さんのグループが美優たちを睨んでいたが、あえて気づかないふりをした。
睨まれる理由は美優でもわかる。
今まで散々美優がダメ出しを受けているのを嘲笑っていたが、支倉音響監督にダメ出しを出す理由を告げられたこと。
そして、支倉音響監督が発表したランキングには三人とも名をあげてもらえなかったから。
だからって、美優は彼女たちを嘲笑ったりはしない。
緩やかに気にしないことにしてやり過ごせば、いつか彼女たちも飽きるだろう。
そう思いながら着替えを済ませてレッスン室へ出て行くと、ちょうど最上さんと十時さんと鉢合わせになった。
未だ少し浮かない顔の最上さんは、前髪を厚く下ろしたまま。
最上さんはハムレットの時にすごくお世話になった人。そんな彼が落ち込んでいる。
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