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ランチョンマットを敷いての食事だったり朝食をしっかり作ったりと、すごく丁寧な生活をするんだなぁと思って見ただけなのに、こんなにドキドキしているのはなんでなんだろう。
それに、このこととは別に、ちゃんと伝えなくちゃいけないことがあるはずだ。
美優はパッと顔を上げた。
「本当は、なんでもなくないです。あの、いろいろありがとうございました。森永さんが見つけてくれなかったら、あたし……」
本当にどうなっていたか……。
それを思うだけで気持ちが沈むけど、森永さんは。
「それ何回目ですか? いいですよお礼なんて」
と苦笑しながらフォークを突き立てた。
だけど美優には、聞きたいことがあった。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ?」
「どうして森永さんは昨日の夕方、あの道を通っていたんですか?」
何か用事でもない限り、通ることがない道だ。
事務所に用事があったならば、自分が足止めをしてしまったということになる。
それが呼び出しなら。
大事な話だったら。
森永さんのチャンスの芽を摘んでしまったことになる。
「大事な用事とかだったら、本当に申し訳ありません」
ばっと頭を下げた美優に森永さんの表情は伺えなかったけど、体感で数秒、沈黙の時が流れた。
「……事務所の通りの奥に、コンビニが、あるでしょう?」
森永さんがゆっくり話しはじめたので美優は頭を上げると、彼は右上に目線を向けながら言葉を紡ぎ続ける。
「あのコンビニに買い物があったんですよ。そしたら、目の前で」
目線がこちらを向くと、森永さんはまたサラダに目を落としフォークでレタスの葉をまとめはじめる。
コンビニに買い物があったとしたら、美優があの道を選んだことがきっかけで、森永さんが何か買えずにいたのかもしれない。
それはそれで申し訳なさでいっぱいになってしまう。
「っ、すみません。欲しいもの買いそびれました、よね? あたし、今から買いに行きましょうか?」
それがせめてもの罪滅ぼしだと思ったけど、森永さんは慌てたように頭を振る。
「……っ。いえ、別に大したものじゃないので大丈夫です。それに藍沢さん、脚痛めてるじゃないですか」
「あ、」
勢いで買い物に行くとか逝ってしまったけど、指摘されて気づく。
真新しい湿布が痛みを和らげてくれているけど、脚を痛めていることを忘れていた。
膝や腕の怪我もガーゼや絆創膏で覆われていて、意識すれば少しづつ痛み始める。
この足で買い物は無理そうだ。
じゃぁどうしたらいいのだろうと考え始めると、森永さんはサラダを口に運びそれを咀嚼し飲み込んでから、口を開く。
「買い物の件は気にしないでください。それに、あんな状態の藍沢さんを見逃さなくて本当に良かったと思ってるんですから」
その言葉は昨日の夜も言われた言葉。
森永さんも本当にそう思ってくれてるって知れて、申し訳なく思うと共に、すごく温かい気持ちになる。
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