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「本当に、ありがとうございます……」
再度礼を告げた美優に、トーストを手にした森永は眉尻を下げて微笑む。
「何回お礼言うんですか。さ、早く食べちゃいましょう。今日はやることいっぱいありますから」
とウインナーやスクランブルエッグをトーストの上に乗せると、半分に折って少し豪快に頬張りはじめた森永さん。
その勢いにつられて美優も食事を進めると、対岸では森永さんがアイスコーヒーの入ったコップを傾けて、口の中の食べ物を胃に流し込み終えたところ。
それらをシンクの中に入れると、森永さんはそのまま脱衣所へ向かっていった。
これは急がなければならない。と、何もつけずにトーストにかぶりつこうとする美優に「急がなくてもいいですよ」と言いながら森永さんが持ってきたのは、ビニール袋に入った衣類。
半透明に助ける緑色には見覚えがあった。
「昨日もお伝えした服の件なんですが、ワンピースが腿上まで裂けてしまっていまして」
そう言いながらビニール袋から取り出されたのは、昨日美優が来ていたグリーンのワンピース。
乾かしてもらったのか、濡れてはいなかった。けど見事に腿上まで裂けてしまっている。
下手したら肌着も見えてしまうかもしれない。
だから森永さんはあの時、あたしの腰にカーディガンを巻いてくれたのか。
美優は朧げな記憶を辿りながら、裂けてしまった部分に指を伸ばした。
「お気に入り、でしたか?」
伺うような森永さんの言葉に小さく頷いて。
「……でも、しょうがないです……。ここまで破れてしまったら、直しようがないですし。新しいの買いますよ」
と笑顔を作ってみるけど、問題はこの服を着て帰れないと言うことだ。
じゃぁどの服で帰るんだ。
今、寝巻きとして借りたこのシャツとリラックスパンツなのか?
このビルには何人か芸能人の卵が住んでいて、全員が喫茶店でバイトをしながら芸を磨いている。
中には女性もいるしバイト仲間だけど、美優は喫茶店ではまだ新人。いきなり服を貸してくれなんて言って貸してもらえるほど仲良くもない。
じゃな何を着て帰ればいいの?
と、いちごジャムを乗せたトーストを齧りながら思考を巡らせていると、再びビニール袋にワンピースを入れた森永さんから提案される。
「このワンピースを着て帰らせることができない状態なので、他に借りられる人いないですし、よかったら俺の服をお貸ししようかと」
「本当ですか?」
声を跳ねさせると森永さんは頷いた。
「はい。俺のサイズ感だったら多少ぶかぶかでもファッションの範囲内でいけるとおもいますよ」
そう言うと森永さんは、パンを全て口の中に入れた美優の手を引いてクローゼットの前まで案内した。
クローゼットはベッドの脇にあったので、美優はベッドの腰を下ろす。
「たくさんあるんでいいですよ、適当に選んで」
と、両開きの折れ扉を開け放った森永さんの向こう側には、たくさんの洋服が丁寧に仕舞われていた。
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