「しようよ」

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彼女の言葉に、まぶたを閉じるのをやめる。 「えっ」 僕は首をまわして後ろを見ようとする。  「また?」 「外に出られないんだし」 「いや、別に出られるやん」 「だって、もう出たくないもん」 二人が横たわるシーツの上を滑って、彼女が上から覗き込んできた。 「ね、いいでしょ?」 「だって……朝までしたやん」 「そうだけど……」 彼女が顔を近づけてきたかと思うと、唇と唇が重なった。 「久しぶりだもん」 彼女の顔が少し離れる。くせのないサラリとした髪が頬にそっとあたり、甘い花の香りが鼻をくすぐる。 「ね……お願い」 ささやく声。 短い距離で視線と視線があう。 僕は体をあおむけにして両手を彼女の背中にまわし、ゆっくりと引き寄せる。 彼女の瞳が少しずつ閉じていく。 視界がなくなると同時に、唇にやわらかい、ぷるんとした感触。 触れるだけではもったいなくて、もっと味わいたくて、唇でついばむ。 彼女もつられて、ついばみ返してくる。 静かになった雨音に、触れては離れる音が重なる。 何度も続けているうちに、満足したのか彼女が頭をそらし、そのまま僕に体をあずけた。 やわらかさに包まれて、重さは全然感じない。 彼女の頭を撫で、一房、一房と髪の束を指でつまんでは離す。 流れ落ちる栗色の髪からは、ずっと嗅いでいたい香り。 「…ねえ」 「ん?」 「……しようよ」 と再び耳元で囁かれる。 雨音はさらに静かになっていたが、まだ降り続いている。 カーテンの向こうは薄暗く,二人の外の世界を感じられなかった。 耳に当たる吐息。 とろけるような胸のの感触。 僕か、彼女か、熱を帯びはじめた。 「……しよっか」 「うん」 顔を向けずコクリとうなずく彼女。 僕は彼女の肩に手をかけ、ゆっくりと彼女ごと体を起こした。 かきあげる髪がさらりとおち,目を細めて微笑む彼女。 僕は、さっそく続きのキスをしようして顔を近づけた。            その僕の肩を手で押して横に避け、彼女はベッドから立ち上がる。 「よし、やるぞー」 リモコンのボタンを押し、テレビの画面をつけると同時に、Switchの電源を入れる。 コントローラーを片手に、 「今日は負けないからね」 ニヤリと振り返る彼女。 雨はまだ、やみそうになかった。
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