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場面四 春の雨のように(一)
『こない可愛いらしい思わんやった』
素直でまっさらや。うちが触れたとおりに応える。
愛おしむように、仁斎は言った。
拒むことしか、耐えることしか知らなかったのに。
いっそ言葉よりも真っ直ぐに、生身の一個の身体が、この男に応える。
それでいいのだと、温かい腕が、闇斎を赦す。
「………あ、あ………!」
あられもない声があがる。
指が、身体を開く。
「仁斎っ………!」
苦痛なら、耐えればすむ。だが、今体内を蠢く指が与える未知の感覚は、どう受けとめたらいいのか判らない。
自分の身体が、自分の手を離れる。その寄る辺なさが怖くて、つい制止の声が上がった。
「………ちょっ、や、やめ………っ、あっ………!」
嫌ならそう言えと言ったくせに、仁斎はやめようとしない。そればかりか、やわやわと局部を刺激されて、悲鳴に近い声を上げた。
「ああ………っ!」
「闇斎はん―――」
背に、幾度も唇が触れる。耳元で、掠れた声が囁いた。
「うちを信じて」
信じる。この男を。
ぎゅっと、拳を握った。
局部に絡む指は、闇斎の痛いほどに張り詰めた充血を感じ取っているだろう。羞恥と未知の感覚に、頭がどうにかなりそうだ。
触れられてもいない乳首までも痺れて、男の愛撫を欲しがっている。浅ましく、おまえに焦がれている。
何故。
何故、こんなに―――
不意に、指が抜かれた。そのことにさえ、ほっとするよりも物足りなさを覚えるなど。
どうかしている。
仁斎。
指と違うものが、そこに触れて。
ぐっと、入り込んできた。
「………っあ………!」
「息詰めたらあかん」
穏やかだがしっかりした声が、命令口調で言った。背に、そっと口付けられる。
「大丈夫やさかい、ゆっくり息して」
「………っ………!」
息が詰まる。
それは慎重に、だが少しずつ確実に、闇斎の身体を開こうとしていた。
侵入しようとするのを感じるたびに息を詰め、そのたびに仁斎が「吐いて」と言うのに、必死に応えようとする。
「大丈夫―――」
背を撫でる、優しい手。
汗とも涙ともつかないものが、頬を伝って床に落ちる。
ぐっと一気に入り込んできた時、引き裂かれても構わないと思った。だが、己れのそこは、予想外に柔軟に仁斎を受けとめている。
ああ、とわななく声が洩れた。
かつて経験したことのないその感覚は、快感というには違和感に近くて。
深く結ばれた場所が熱い。
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