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場面三 柔らかな心の芯(五)
「そない、て」
「そない思うてて、それでもうちに、身体くれようとしたん」
闇斎は、自分を見下ろしてくる顔を見上げた。
「そんなん、嫌やし怖いやろ」
仁斎は、何故か少しばかり怒っているようで、それが何故なのか闇斎には判らない。
「初めてやないし………」
嫌だし怖いだろうと気遣われたところで、そういうものだから仕方がない、としか考えようがなかった。
固く閉じた後孔を、こじ開けられ、引き裂かれ、抉られる痛み。あんな苦痛を、自ら望むはずもない。
だが、おまえが欲しいというなら。
押さえつけ、闇斎の拒絶を嘲笑いながら、力ずくで秘部を暴いていった男たちと、仁斎は違うと知っている。肚は括ったつもりだった。
「判った上でこないしてるんやし………」
「………」
「耐えられんことない。………別に、そない気にしてくれんでもええ」
「………あんたはんは」
仁斎はため息をつく。それからしばらく黙り込んだ。それからぽつりと呟く。
「そら、身体固うもするわ………」
仁斎は宙に視線を投げ、それから頬に口付けを落とす。
「あのな、耐えるようなことと違う」
諭すような口調だった。眼差しが出会って、唇が口を塞いだ。互いの舌が口中で絡み触れ合う、しっとりと穏やかな熱に、心の深い部分が安堵する。唇はまた頬に触れ、首筋を啄み、鎖骨に落ちた。身体を撫でる手のひらは、慈しむように優しい。
「あんたはん、ほんまに気ぃ張ってずっとやってきたんやろな」
ひとり言のように、仁斎は言った。
「色んなこと辛抱して、努力して、ここまで来はったんやな」
「―――」
仁斎の言わんとすることが判らず、闇斎はただ仁斎を見つめた。仁斎は苦笑する。
「俯せて」
闇斎はわずかにためらったが、意を決して床に這った。背に、仁斎の唇が触れる。随分長く感じられる時間、仁斎はそこに口付けていた。
背後から腕を回し、闇斎の身体を抱きしめる。
「こないに………折れそうやのに」
どこかしみじみと、仁斎は呟いた。指が腹を滑り、局部を捉える。精を放ったばかりのそこに、今は力はない。だが淡い快感にぞくりとした。
指が、再び秘所に触れる。
「………っ」
「ここな、傷つかんようにちゃんとするさかい」
背に口付けが落ちる。
「出来るだけ楽にしとき。初めにも言うたやろ。あかん思うたらちゃんと言い。うちとおるときに武士やらなんや関係ない。あんたはんはうちより九つ年上なだけの、生身のただの男や。傷つけば痛いし、これ触られたら気持ちええやろ」
「………っ、あほ!」
こいつ、臆面もなく!
「闇斎はん」
年下の儒者は、穏やかな声音で言う。
「我慢やのうて、いつかはこれ好きて思うて欲しいし」
「………」
さらりと言われて、絶句するしかない。
背を向けていてよかった。顔が熱い。
もう、罵倒する言葉も思いつかない。
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