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雨のせいで少し湿気ってしまった冬真の柔らかな髪の毛を、指先で絡めるようにそっと撫でた。
なにが大丈夫かなんて、私にだって分かってはいないのに。
「よかった。美羽までいなくなったら、俺……」
冬真が思わずという風に呟いて、それからハッとしたように私から体を離した。
冬真は自分を恥じるように、ごめんと謝って私から目を逸らす。
伏せたられたまぶたから覗く睫毛が静かに震えていた。
気にすることなんてないのに。私も同じことを思っているのだから。
冬真までいなくなったら、私はどうすればいいんだろう。どうやって生きていけばいいんだろう。そう思っているのだから。
窓の外で降り続ける雨の音が、私たちの沈黙を埋める。
泣けない冬真の代わりに泣いているみたいだ、なんて馬鹿なことを思った。
「……あ、そうだ。グレープフルーツ買ってきたよ。いま食べる?」
「え?ああ、うん。食べる」
視線を彷徨わせて話題を探していたらしい冬真がふと尋ねてきた。
私はすぐに笑顔を作って頷いた。
ああ、そうだ。眠る前に買い物に行くと言う冬真に、私が食べたいからと頼んでおいたことを思い出す。
どうやら見つけてくれたらしい。
近くにあるスーパーはあまり大きなものではないから、あるかどうか少し心配だったのだ。
冬真が床に置いていたナイロン袋を拾い上げてキッチンへと向かった。
きっと寝転んでいる私を見て、気が動転して袋を投げ出してしまったのだろう。
冬真とは長い付き合いだから、簡単に想像がつく。
しばらくして冬真は一口サイズに切られたグレープフルーツを盛った皿を手にして戻ってきた。
ソファーから降りようとしたけれど、くらりと目眩がしてまた座り込んでしまった。
それに気づいた冬真は私の隣に腰掛けて、座ってなよと心配そうに言ってくれた。
その優しさに甘えて、ソファーに深く腰掛けたままグレープフルーツを食べることにした。
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