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もうじき冬だというのにグレープフルーツはとても瑞々しく、つんとした酸っぱさが喉に染み渡る。
赤く色づいた果肉はずっしりと重い。
「ありがとう、おいしい」
「よかった。本では読んでたけど、本当に酸っぱいものが食べたくなるんだなぁ」
不思議そうに冬真が言う。
私もこうなるまでは酸っぱいものは得意な方ではなかったから少し不思議には思う。
でも体がいつもとは違うのだし、味覚が変わるのは多分仕方のないことなのだろう。
「触ってもいい?」
おずおずとこちらの様子を慎重に伺いながら冬真が尋ねてくる。まだ慣れないのかと思うと、少し冬真が可愛らしく思える。
もちろん私もまだこの状態の自分の体に慣れていないから、少々怯え気味の冬真に向かって偉そうなことは言えないのだけど。
「いいよ」
私の了承を得てから、冬真がそっと壊れ物にでも触るかのように私の腹部に触れる。
それからゆっくりと優しく愛おしむように撫でられた。
それが嬉しいような、くすぐったいような、触られたことに対する違和感のような、不思議な感覚に左右される。
矛盾した感情が幾つも同時に現れるのも、そういうものだと知っておけばさほど怯えるものでもない。
冬真が神妙な顔で撫でる、まだ平たいそこにもう一つの命があるなんて、言わなければきっと分からない。
「すごいなぁ」
冬真の呟きに、本当にそうだと頷いてしまう。
本当にすごい。奇跡としか言いようがない。
鼻の奥がつんとしたのは、グレープフルーツが酸っぱいからだけではないだろう。
ねえ、十二歳の私。中学生になって、慣れないセーラー服を着て、自分と周りの人との違いを自覚して、いつも必死で大人ぶっていた私。
あなたは冬真と結婚する。
中学で出会った大切な人と。大切な親友と。あなたは結婚する。
そう教えたら、あなたはなんて言うかな。
そんなわけないって怒るかな。私と冬真が結婚するわけないって、きっと怒るかもしれない。
私たちはそんな関係じゃないって喚くかもしれない。
私もついこの間まで考えもしていなかったのだから、怒るのも喚くのも容易に想像ができた。でも本当なのだ。
それが十二歳の私には想像も出来なかったであろう、二十八歳の私の現実だ。
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