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「俺、穂高誠」
だから知ってるってば、と言いたいのはぐっと堪えた。
愛想の無さそうに見えた穂高も話してみればさほど高圧的にも感じなかったし、正直に言ってしまうなら、女子と一緒にいる時よりも楽だと言ってもよかった。
「なんか似てるね、俺たちの名前」
各自問題を解き始めて、適当に相談まがいのことをしていた最中、冬真がくすりと笑いながら言った。
「……冬真、誠。とーま、まこと。ああ、確かに」
なんのことだ、と一瞬首を傾げたもののすぐに冬真の意図に気づき名前を反芻してみるとすぐになんとなく言いたいことは分かった。
「そうかぁ?」
穂高の間の抜けた声が面白くて、私と冬真は何がそんなに面白いのかというほどけらけらと笑った。
箸が転がっても面白い。
そんな年頃だったのかもしれないし、私たち三人がいればいつだってそうだったのかもしれない。
「若竹さんの名前は?どんな字を書くの?美しいに雨?」
ようやく笑いが治ったらしい冬真がそれでも少し笑いながら尋ねてきた。
私も笑っていたからだろうか。驚くほど自然に答えていた。
「ううん。美しい羽で美羽」
「ふーん、どういう意味?鳥?」
穂高がそんなことを言うものだから、違う違うと気軽に首を振った。
「うちの父親、蝶が好きなの。だから姉が揚羽で私が美羽」
こんな情報、他人からしたらどうでもいいことなんて頭では分かっているのに、何故か口にすることを少しも躊躇わなかった。
どんな話をしても適当にこの二人は適当にあしらったりしないと、どこかで感じていたのかもしれない。
「いいな、美羽。呼びやすい」
「うん、いいね。美羽って」
二人が美羽、美羽と言うたびに私の心に羽が生えたかのようにふわふわと浮き足立った。
いま思えばこの時から、私たちは親友への一歩を踏み出していたのかもしれない。
間違いなく言えるのは、私の中でただのクラスメイトだった八坂が冬真になり、穂高が誠になったということだ。
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