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第1話
私立帝應大学附属九蘭高校。
名家の子女が通う本校同様に、由緒正しき高校である。
違う点といえば本校は共学、九蘭は血気盛んな男子高校生が集う男子校であり、本校が幼稚舎からのエスカレーターか外部受験なのに対し、九蘭は本校の幼稚舎から通っていても内部受験がしっかりある、国立進学コースしかない超エリート高校生が集まっている。
右を見ても、左を見ても、後ろを見ても前を見ても、当たり前だが男子生徒しかおらず、人気なのは数少ない若い女性の教師。
保健室にいる養護教諭も若い女性なので、保健の先生目当てに汗くせー男子高校生が、ツバでもつけて舐めとけば治る傷にでも絆創膏をたかりにやってくる。
しかし、そんな彼らは女が少ない環境でも、他校の女子校と合コンをしたりそれなりに青春を謳歌しているのだ。
ごく一部を除いては。
「なぁ、今日さぁ」
高栗茉理が、前の席の柳井絢斗に声をかける。
仲の良い絢斗は茉理の幼馴染みで、産まれてからずっと一緒だった。
隣同士の家で、お互いひとりっ子と言うこともあり兄弟のように育ち、家族ぐるみの付き合いを17年間続けていた。
「ん?」
絢斗は無表情のまま後ろに振り向いた。
「終わったら、帰りにギャレットスポーツ寄ってくんね?バッシュがもう古くてさ」
茉理の言葉に絢斗は不思議そうな顔をする。
「お前にバッシュ必要か?今度の授業で使うだけだろ?」
クスリと笑って絢斗が言うと茉理は真っ赤になる。
「形から入るんだよ!前の履けたけど、よくよく考えたら中学の時のだから古いし!」
中学の時と聞いて絢斗は驚いた表情になる。
「……………中学のまだ履けたの?ヤバくね?成長止まってるん?」
絢斗の言葉に茉理は真っ赤になってムッとする。
「悪かったな!どうせ足のサイズ25のまんまだよ!」
茉理がそう言うと絢斗は面白がってゲラゲラ笑う。
ったく!
ほぼ無表情なくせして、俺を馬鹿にするときだけはゲラゲラ笑いやがって!
ムッとしながら茉理は絢斗を睨んだ。
成長止まってるん?
この言葉が茉理は非常にむかつく。
中学3年で165cmまで伸びたのに、高校に入ってからは緩やかになってしまった。
高校2年の今、168cmしかないのがコンプレックスだった。
しかも見た目も童顔で、天然パーマのせいか可愛いと良く形容され、高校1年の時は先輩に愛の告白までされた程だった。
「なぁ!付き合ってくれねーの?」
茉理が絢斗に言うと絢斗はニヤリと笑う。
「サンダーズでコーヒー奢れよ」
ちぇーと思いながらもその条件を茉理は飲む。
中学時代バスケ部員だった絢斗に付き合ってもらうのが、1番良いと分かっているからだ。
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