2 星の子どもたち

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2 星の子どもたち

 万博のパビリオンを改修して造られた研究施設の巨大なフロアは、10メートルごとに設けられた検問所とそこに詰める武装兵の姿がなければ、大企業のモダンな社屋を思わせた。 「他の親たちは、もう到着してるんですか」 「君で最後だ。そういえば彼らに会うのは初めてだったね」 「えぇ、私は特別補充枠でしたから……」  伊丹とともに機動装甲車から屋内電動カートに移乗した曽根は、行きかう白衣と軍服の波に視線を泳がせた。           *  1年前、7歳になったばかりの一人娘を曽根は自動車事故で亡くした。  当時、大阪都庁で大学病院と先端科学研究センターの連絡調整役をしていた彼は、センター顧問の伊丹の研究内容を知る立場にあったので、藁にもすがる思いで研究への参加を懇願した。伊丹にしても人々の倫理観が壁となって被験者(ドナー)集めに恐ろしく苦労していたので、両者の利害は見事に一致した。公私混同どころか、便宜供与と指摘されても言い逃れができない行動だった。  しかし、そのおかげで娘は甦った。  死後に摘出された娘の脳が、他の子供のそれとともに月面基地へ移送され、そこで伊丹の作り上げた量子コンピューター『不動』の陽電子回路に直結されることによって、黄泉の国から帰還を果たしたのだ。  研究の成功を告げられた曽根や他の親たちは始めは半信半疑だった。しかし、彼らと再会した子供たちの三次元アバタ―が生前の性格や記憶を再現し、はしゃぎ、笑い、楽しそうに話をするにつれ、親たちの懸念は雲散霧消していった。 「ありがとう、皆さん。あなた方のお子さんたちのおかげで、不動も人の心を持つことができました」  曽根は伊丹の感極まった謝辞を昨日のことのように思い出すことができた。
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