3 夜空の花火

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3 夜空の花火

「ぼくたち、地球からのお便りをぜんぶ読んだよ。もっともっと、お話ししようよ」  人々は、星の世界から呼びかける可愛いらしい子供たちのアバタ―を愛し、『不動』と融合進化した子供たちもまた人々と話すことを、たいそう好んだ。彼らは、いつしか『宇宙(そら)の子供たち』と呼ばれ、半年後には地球上の大部分の人々と交流を持つようになった。  ある日、好奇心旺盛な『宇宙(そら)の子供たち』は一通のメールに目を止めた。  それは難病を患った一人の男の子からの便りだった。 「花火は好きですか。ボクは大好きです。でも、また怖い病気が流行って、楽しみにしていた花火大会が中止になっちゃいました。病室の窓から観れると思ってたのに、ガッカリです。きれいな花火が見たいなぁ」 「わたしたちも地球のみんなと同じように花火が大好きよ」  『星の子供たち』の一人が無邪気に反応した。 「だから地球に届けてあげる」と、もう一人が後に続いた。「待っててね。大きくてきれいな花火だよ」           *  数々の深宇宙探査機や発電衛星用の資材を宇宙空間へ打ち出す月面基地の巨大な質量射出機(マス・ドライバー)。  『宇宙(そら)の子供たち』は、これを使って小型自動車ほどの数個の岩石を地球軌道に時間差をつけて打ち出した。綿密に計算された岩石群は大気圏に突入する前に爆砕され、その細かな破片は空気との摩擦で流星雨を出現させた。岩石に含まれる様々な金属成分は、赤、白、緑と色とりどりの光の帯となり、夜空を覆う壮大な宇宙花火となった。  世界は空からの思わぬ贈り物に酔い痴れ、少年と『宇宙(そら)の子供たち』の友情に心を熱くした。           *  だが、『宇宙(そら)の子供たち』の行為を危険視する人間たちがいなかったわけではない。為政者に富裕層、役人や御用学者など人々の上に君臨する支配層である。彼らは自分たちが御しえない新たな秩序の萌芽を敏感に感じ取ると、『宇宙(そら)の子供たち』が月面基地の職員に無断で行った質量射出機(マス・ドライバー)の使用を(とが)めた。  支配層は世界中から湧きおこる反対の声を押し切ると、月面基地の職員に『星の子供たち』の強制停止を命じた。  だが、『宇宙(そら)の子供たち』は老獪(ろうかい)だった。  彼らは、緊急事態を装うと月面基地の職員が避難した区画(ペイ・ロード)ごと無人の往還機(シャトル)荷物室(カーゴ・ベイ)へ載せて、地球へおくり帰してしまった。また、それと同時に自分たちを葬ろうとした支配層のあらゆるデータにアクセスして、すべてを白日の下に晒した。権謀術数を駆使して自らの城を守り抜いてきた支配層が不正と悪徳に無縁であった試しは少ない。彼らの多くは無邪気な智の巨人の前に、社会を追われたり、獄舎へ送り込まれたりして破滅していった。
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