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◇◇◇
学童クラブに通う生活を始めてから、一週間が経とうとしていた。はじめはどうってことないと高を括っていたけれど、こうして連日過ごしてみると、やはりそれなりに疲れる。
定時で上がって家でのんびりしていた今までと比べれば疲れるのは当然だ。それなのに、いつものようにテレビを見て夜更かしをし、だらけた生活を送っていたのだから自業自得かもしれない。
金曜日、いつものように定時になると帰り支度を始めた。ひとまず今日で一週間が終わる。また来週の月曜からお迎えはあるけれど、土日はゆっくりできる。少し心が軽くなるのを感じながらパソコンを操作する。電源マークをクリックする寸前、突然マウスを持つ手をがっつりと掴まれた。
「わっ、なに」
「宮丘ぁ」
「えー……、なんですか……」
情けない声を出しながら私の手に縋りついているのは、隣のデスクにいる飯塚さんだ。年上の男性とは思えないほど仕事の詰めが甘く、会社での態度も甘く、こうしていつも泣きつかれている。私も大して仕事が出来るわけではないけれど、この人は度を越して酷い。
「お願い手伝って……!」
「すみません、用事があるんです」
「駄目なんだよ、今日中に提出しなきゃいけないんだよ」
「えぇ……」
どうして今日中に提出しなければいけない仕事を、定時になってから手伝ってくれなんて言うのだろうか。もっと早く言ってくれればいいのに。そう思いながらも、時計を見てぐっと言葉を飲み込んだ。少しなら、大丈夫かな。
「三十分だけなら」
「ありがとう!」
「ちょっと電話してきます」
「ありがとう!」
携帯電話を持って席を離れ、廊下に出た。学童クラブに電話をすると、すぐに職員の人が出る。
お迎え時間は十九時までだ。三十分後の十八時に出たとしても、充分間に合う。ただ、いつも早い時間に行っていたから、それよりも確実に遅くなってしまう。そう伝えると、「大丈夫ですよ」と優しい声音で返ってきた。
通話を終えて席に戻った。そこには大量の書類を二等分にしている飯塚さんの姿があって、私を見るやいなや、誤魔化すような笑みを浮かべ、分厚い方の束を私のデスクにそっと置いた。
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