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ドアを開けて中へ促すと、篠原くんが「おじゃまします」と少し頭を下げて入っていった。その肩で悠希くんの頭がわずかに動いた。
「お、悠希起きた?」
篠原くんが気づき、首を傾げて言う。ドアを閉め、鍵を掛けながら二人の会話に耳を傾ける。
「あおちゃんだ」
「そうだよ」
「……ここ、悠希の家だよ?」
「お前寝ちゃったからな、俺が運んでやったの」
悠希くんに、再び泣き出す様子は見られない。落ち着いた声音を聞き、大丈夫だろうと安心して玄関の電気を付けた。振り向いて見れば、寝起きのせいか眩しさに目をぎゅっと閉じていた。その目が開き、私を見て「はなちゃん」と言う。
「ちょっと待っててください」
二人を置いて家の中に入った。ここでさよならというのも申し訳ないし、せめて何かお礼になるようなものを渡したいと思った。リビングに入り、さらにキッチンに入って戸棚を漁る。
人の家の棚を勝手に漁っておいてなんだけれど、ろくなものがない。封の開いたお菓子やビールしか目につかず、更に違う戸棚を開けて奥を漁る。お中元の残りかと思われる缶ジュースが数本出てきた。賞味期限を確認し、もうこれでいいやと二本手に取ってキッチンを出た。
ジュースなんて飲むかな、でも、ビールを渡すよりかはマシだ。未成年という可能性もあるのだし。
足早に戻ると、二人が玄関に腰を下ろして話していた。篠原くんの背中がこちらに向いていて、顔が見えない。
「あれやって。あれやったら帰ってもいいよ」
「帰っていいって、お前なぁ……」
悠希くんが何かを催促している。きっとまだ一緒にいたいのだ。
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