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「一回しかやらないからな。ちゃんと見てろよ」
「うん」
篠原くんが俯き、両手で何かをしている。気になって近づいた。手元を覗き込んでみるも、背中が邪魔でよく見えない。
次の瞬間、二人の顔が同時に上を向いた。何かを目で追っているのだと思い凝視すれば、小さなキラキラとした光が上へと昇っていくのが見えた。
二人の頭上で止まると、それが無数に増え、綺麗な花模様を描くように散らばっていく。黄色やピンク色、青色、様々な色の光の粒が、煌めいて揺れ、儚く散り、それを見ている間に次の花が咲く。まるで小さな花火だ。
「す、ごい……」
思わず声が漏れた。気分が一気に高揚していく。
「すごい! 綺麗! すごい!」
「え……っ」
私の声に驚いたのか、篠原くんが弾かれるように振り向いた。ようやくその手元が見え、言葉を失う。何もなかった。ただ手のひらを上に向けているだけで、そこに何も持っていなかったのだ。
「なんで!? どうやってやったの、すごい!」
「あ、いや、えっと……」
近づいてしゃがみ込み、その手を掴んだ。大きく無骨な手は、至って普通な男の子の手だ。何か仕掛けがあるわけでもないし、花火を出せるようなものを隠し持っているわけでもない。わけが分からずに篠原くんの顔を見れば、手を乱暴に離されてしまった。
「べつに……っ、なんだっていいだろ」
悠希くんが隣でぴょんぴょんと跳ねている。花火の残り火のような光が僅かに宙に残り、それに触れようと必死で手を伸ばしていた。
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