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第二話
昼休みの教室は騒がしく、女子生徒の甲高い声や男子生徒の騒がしい声が絶えず聞こえてくる。
「ねぇ、見てこれ。キャラ弁つくったの」
「なんだこれ……。ネコか……?」
目の前で弁当箱を広げ、会話をする二人を見た。小木と福本はこのクラスの生徒ではない。特に仲が良かったわけではないのだが、ある日、半ば強引に昼ご飯を並んで食べることになり、それ以来こうして昼休みになると時間を共に過ごすのが当たり前になっている。
小木が作ったという弁当を見た。中心に大きくキャラクターが模られていて、周囲にはブロッコリーとプチトマトが敷き詰められている。福本の言うとおり、猫に見えなくはない。それらしい耳もある。だが、顔が完全に人間のおっさんだ。
「かわいいでしょ」
「気持ちわりぃ」
「ひどくない? 彼女が作った弁当に対してひどくない?」
のんびりとした口調で小木が言う。箸を持つと、おもむろに猫のようなおっさんを突いた。
「ここを捲ると内臓が見えます」
「気持っちわりぃ」
いつも通りの二人の会話を聞きながら、コンビニの袋に手を入れた。朝、登校時に買っておいたものだ。菓子パンとジュースを取り出すも、なんとなく食欲が沸かなくて手を止める。
「篠原どうしたの」
小木が不思議そうに言った。
「なにが」
「元気ないじゃん」
「そんなことないけど」
「溜息ついてたよ」
気づかなかった。この休みの間、家でずっと言われていたから学校では気を付けようと思っていたのに、やはり油断すると出てしまうようだ。
なんでもない、と誤魔化し、紙パックのジュースを手に取る。ストローを挿して一口吸い、その苦みに驚いてすぐ口を離した。なんだこれ、野菜ジュースだ。間違えた。
「ほら、また溜息ついた」
「買うの間違えたんだよ。苦くて飲めない」
「子供か」
代わりに飲んでもらおうかと思うも、男に差し出すのは気が進まず、かといってその彼女に渡すのはもっと駄目だろうと、仕方なく口にする。こんなことなら、リンゴジュースが無かった時点で諦めればよかった。登校前、焦って適当に掴んだせいで間違えたのだ。
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