第二話

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 勢いのまま昇降口を出て、校舎の裏側に周った。そこは人がほとんどおらず、一人になりたい時にちょうどいいのだと、卒業生である兄が教えてくれた場所だった。裏庭と呼ぶには狭い空間は、たしかに静かで邪魔がない。  校舎寄りの石畳にそっと腰を下ろした。途端に盛大な溜息が出る。顔の火照りは収まらないが、徐々に心臓の音が静かになっていく。風が吹き、少し冷たい感触が頬に当たって心地よい。  もう一度息を吐き、目の前の地面をじっと見つめる。 金曜日の夜、家に帰ってからずっとこの調子だ。溜息が止まらなく、食欲も沸かず、半ば放心状態だった。頭の中には常に彼女の顔があって、そこに意識を向ければより一層に喉元が苦しくなった。  べつに初心(うぶ)な子供というわけではないし、まぁ、そういうことなんだろうなとは内心では思っていた。けれど、ああして直球で「恋」などという言葉を向けられてしまうと、恥ずかしさが生まれて咄嗟に逃げてきてしまったのだ。  目を瞑れば、思い出されるのは四倉悠希の家に行った、あの時のことだ。悠希にせがまれて見せた花火を、まさか彼女にも見られているとは思わなかった。  焦る俺を余所に、彼女は目を大きくして輝かせた。すごい、と声を上げ、まるで子供のようにはしゃぐ姿は、普段の自信の無さそうな様子からかけ離れていて、思わず目を奪われた。あぁ、こんな風に感情を表に出す人だったのか。そう思った瞬間から、彼女に惹かれ始めていた。  ぼんやりとその時のことを考えていると、遠くで予鈴が鳴った。昼休みが終わる。昼食をまだ食べていなかった。こんなことなら持ってくればよかった。あの状況で手にする余裕などなかったけれど。  戻ってさっさと食べてしまおう。立ち上がり、ズボンを払いながら速足で教室に戻る。自分の席にいくとそこに二人の姿はもう無くて、菓子パンと野菜ジュースが置き去りにされていた。ふと、そこに挟まれているメモに気付く。 『明日のお弁当はお赤飯にするね』  このふざけた言葉は明かに小木だろう。赤飯って、普通はめでたい時に炊くものじゃないのか。思わず握りつぶしてコンビニの袋に放り投げた。
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