第二話

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◇◇◇  放課後、授業を終えてすぐに図書室に向かった。校舎の端に位置するそこは、二階建てで広く、静かな空間が広がっている。壁沿いに半分個室になっている勉強机が並び、この時期には受験を控えた三年生が多く利用しているようで、ほとんどが埋まっていた。  唯一空いている一席を見つけ、そこに腰を下ろした。鞄から問題集と筆記用具を取り出して机に向き合ってみれば、閉塞感がなかなかに心地よい。初めて使うけれど、結構集中できるかもしれない。  今日は学童保育のバイトは休みだ。連休明けということもあってか預かる児童が少なく、人も足りているからと今朝連絡があったばかりだった。来てもいいが、受験勉強の時間に費やした方がいいのではないか、という内容が含まれていた。気を使われているらしい。  二時間ほど勉強をして、帰り支度を始めた。そういえばバイトが休みになったことを父親に伝えていなかった。まぁいいか。どうせ今から帰るのだから。  昇降口を出ると、涼しい風が全身をかすめた。まだ十七時過ぎだというのに、外は既に暗くなっている。もうすぐで冬がくるのだな、とぼんやりと思う。毎年、この季節になると心の中が物悲しくなる。 「篠原」  校門に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、福本が立っていた。鞄を持っているので、これから帰るのだろう。少し驚いた様子でこちらを見ている。 「バイトは?」 「今日は休み。お前こそ何してんの」 「後輩に顔出してた」  後輩とは、陸上部のことだ。福本はすでに引退しているが、入学時から続けていて信頼も厚いらしいことは小木から聞いたことがある。  昼間のことがあったので、なんとなく身構えた。小木がいれば確実に揶揄(からか)われただろうが、福本はそういう性格ではない。どちらかといえば、自由奔放な彼女を呆れながら見守っている方だ。  無言で並んで歩き、校門を出た。駅へと続く大通りには人が溢れていて、賑やかな声がそこかしこから聞こえてくる。 「お前さぁ、昼間話してたやつ」 「あーあ」 「なんだよ」 「福本はほっといてくれる奴だと思ってたのに」  わざとらしく言えば、なぜか少しおかしそうに顔を歪めた。 「だってお前、あの反応は駄目だろ」  あの反応ってなんだよ。そう思うも、自覚しているので口には出せない。言えば自分の恥ずかしい姿を掘り返されるだけだ。
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