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act4
車の音、外の雑踏が部屋の中に響いてくる、日は高く上っているのか、部屋の中が蒸し暑くなってきた、隣に寝ている人を起こさないように静かに出ていく女、エアコンのスイッチを入れ部屋を出ていった。
「健気(けなげ)よね」
シャワーを浴びる、伸びてきたひげを気にしながらシェービングフォームに手を伸ばす。髭を剃る、剃刀は隠した、何が起こるかわからないから。刃物は置かないようにしていた。白髪交じりの髪の毛、(そろそろ染めなきゃ)
Тシャツにジャージのパンツをはき、タオルを頭に巻き付け、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して飲む。自分宛ての手紙、いつでも見れるようにしてくれている。ダイレクトメールを捨てる、親展の文字、封を開け中に目を通し、みおの目のつくところに置いてメールを送る。その辺を掃除して、袋にいっぱいになった空き缶を外へ出しに行く、パタパタとなるサンダルの音が響く廊下、ドアからは住人の名前が消えてゆく。部屋に戻り身支度を始める。みおの化粧入れを開ける。
(私の物ばっかりね)
鏡に映る自分、男から女へ変わる時、思い出すのは母親の泣き顔。
(そろそろ五十か、先のこと考えなきゃ)
玄関の扉を開けた。
「あら?」「うす」
扉の外に、男が座っていた。
「あの子、今日は遅番よ?」
「そっすか、だいぶあんな」
「ちょっと、付き合いなさいよ」
「・・・」
「取って食いやしねえよ」
開店前の店先にはビールのケースが積んであり、酒や、おしぼりが積んであった。
それをよけ、カギを開ける。
「喚起、そこ開けたままにして」
ドアを開けたまま中に入る、ママは明かりをつけ、エプロンをかけた。
「ちょっと支度するから適当に座って」
ガチャガチャとビールを運び、冷蔵庫に酒を並べると掃除を始めた。
「何か手伝いましょうか?」
「ありがと、そこのおしぼりで、カウンターとテーブル拭いてくれる?」
男は、ポンと袋を破ってその辺を拭き始めた。
「ママさん、全部するんですか?」
「そうよ、私の城ですもの」
「城か・・・」
「あんた、名前とか電話番号誰から聞いたの?」
「誰でもいいじゃないすか」
「そうね、詮索した所で、もうわかっちゃってるんだもんね」
男はおしぼりを置くとカウンターに座った。
「ママさんはみおのことどれくらい知ってるんですか?」
「何も知らないわよ?」
「知らないって、あいつの部屋から出て来たのに?」
「知ってどうすんのよ」
「俺、あいつを助けたいなって思って」
照れながら頭をかく男
「あんたは何もできないわよ」
「いや、俺はあいつを、みおを助けてやれる、絶対!」
「青春ねー青いわよ」
「あんただって男だろ?いいところで捨てるんじゃねえの」
ドキッとして手が止まった。見透かされているような気がした。
「てめーに言われる筋合いじゃねえよ」
「ふーん、捨てちゃうかもしれないんだ、ママさん本気モードになると、男になるもんね」
掃除を終え、ほうきやモップをしまう。
「なんであの子をかまうの?」
「なんて言ったらいいのかな、体を見ちゃったからかな」
「まさか、お前」
包丁を取り出した。
「そ、それしまってください、俺、何にもしてませんから」
手にある包丁を見た。
「あら、ごめんなさい?」
仕込みを始めた。
「でも、怒るってことはママさんも知ってるんですね、あの傷」
「・・・まあね」
「あの傷、何ですか?」
「知らなくてもいいことじゃないの?」
「いや、知りたいっす、彼女、女じゃないって言ってました、でも、ママさんにだけはあいつ女の顔をして話してるから」
この子・・・鋭い
手を止めた。この先の事を考える、老いていく自分、目の前には若いエネルギッシュな男がいる。潮時かしら。今離したら、あの子はどん底に追いやることにならないか心配してしまう。
「自分で聞けば?」
又手を動かし始めた。
「教えてくれたっていいじゃないですか?」
「お前、俺に決闘申し込むんじゃなかったのか?」
「そうっす、あんたに並びたくても何も知らない」
「甘えてんじゃないわよ、自分で何とかしろって言ってるんだ」
「そんな事、出来るんだったらここへ通ってない」
頭を抱える男
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